表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第一話 朱雀と白虎

 夜の帳が降りると、この学園の空気は一変する。

 昼間の喧騒は影を潜め、四季を冠した寮の窓々に、灯火がひとつ、またひとつと揺れる。だがその静けさは決して安らぎではなかった。

 人の眼には映らぬ怪異が、闇の奥底でざわめくのを、学園の者たちは肌で感じ取っていた。


 春宮朱音は、朱雀の紋章が縫い込まれた巫女装束の袖を正し、深呼吸をひとつ。

 今日から、新たな白虎と共に任務に臨む。


「行くよ、隼人」

 「……はい」


 低く応じる声。

 白虎に選ばれた二年生、秋月隼人。精悍な顔立ちに似合わず、どこか人を拒むような鋭さを纏っている。

 まだ互いを知るには遠い距離感。だが戦場では迷っていられない。朱雀と白虎は常に対を成し、前衛と後衛として息を合わせねばならなかった。


 夜の学園を抜け、二人は結界の外へと足を踏み出す。

 その瞬間、ぬるりとした瘴気が肌にまとわりついた。


 「……来る」

 朱音は直感で告げ、右手に御札を構える。


 樹々の影から、黒い靄がにじむように溢れ出す。

 やがて形を成したのは、人の背丈を超える異形の怪異。角のように伸びた枝、滴るような闇の液体。歪んだ笑い声が空気を震わせた。


 「後ろは任せる」

 「了解」


 朱音が一歩前へ躍り出ると同時に、隼人が後衛に立ち弓を引き絞る。

 矢先には霊力の光が凝縮され、緊張が走る。


 怪異が咆哮とともに飛びかかる。

 朱音は紙札を投げ放ち、瞬時に火の奔流を呼び起こした。炎が獣の前足を焼き裂く。怪異がのたうつ隙を逃さず、隼人の矢が光となって飛んだ。


 ――ズドンッ。

 矢は怪異の胸を正確に射抜き、悲鳴が森に響く。


 「やるじゃない」

 朱音が短く言えば、隼人は表情を崩さぬまま矢を継いだ。

 「…仕事だから。先輩こそ、今日調子いいんじゃないですか??」


 そのやり取りも束の間、怪異は再び姿を歪めた。

 矢で穿たれた胸から、黒い瘴気が逆流し、もう一匹の怪異を形作っていく。


 「分裂か……!」

 「厄介だな」


 前衛と後衛の役割を瞬時に切り替え、二人は連携を取り直す。朱音が炎で片方を牽制し、隼人が矢を連射してもう一方を削る。互いに背を預ける戦いは、まだぎこちない。だが確かな力を重ね合わせることで、徐々に呼吸が合っていった。


 ――やがて。

 最後の一体が炎に呑まれ、光の矢で心臓を射抜かれると、瘴気は夜風に散って消えた。


 静寂が戻る。

 朱音は小さく息を吐いた。胸の奥に、別の重苦しい痛みが広がる。


 ――もし陽真がここにいたら、どんな戦い方をしていただろう。

 背中合わせに笑い合いながら、もっと鮮やかに怪異を斬り伏せていたのではないか。


 朱音はその思考を振り払い、口元を引き結ぶ。

 「……任務完了だ。戻ろう」

 「はい」


 隼人の短い返事が、妙に遠く響いた。

 彼は陽真とは違う。代わりではない。けれど――。

 朱音は、その距離を埋めるように歩みを進めた。


 夜空には、朱雀のように赤く瞬く星がひとつ。

 朱音の決意を、静かに見守っていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ