1-2 異世界転生-神様のミスです。
「…その通りじゃ。申し訳ないと思っておる。
しかし、もう他には選べんのじゃ。
お主の魂が、あまりに澄んでいて……星が応えてしまった。
ワシも、つい、手を伸ばしてしまってな。
ちょ、ちょっと触っただけなんじゃよ…」
空気がしんと静まった。
神様のしどろもどろな言い訳を聞きながら、
僕はしっぽを下げて小さく唸る。
「めちゃくちゃだよ神様…。」
僕はしっぽを巻きながら、ふわふわした雲の上に座り込んだ。
さっきまで感じていた空気のあたたかさが、少しだけ冷えていく気がした。
「本当に僕なの?選ばれたって言われても、僕はただの…」
そのとき、頭の奥で“飼い主の声”がふっと響いた気がした。
『レオン。大好きだよ。』
その声に体が、少しだけ震えた。
飼い主の声。匂い。優しい手。全部が一気にあふれ出した。
神様は、そんな僕の揺れる目をじっと見てから、ぽつりと口を開いた。
「急なことで戸惑っておると思うんじゃが…
もう決まってしもうた。勝手じゃが覚悟を決めて欲しい…。
それとのう…姿も選ばねばならんのじゃ。
獣人のままの姿で生きるか。あるいは、人間として新たに歩むか。」
神様の言葉に僕は思わず顔をしかめた。
だって、そんなことがあり得るの?
「人間になれるの?……でも、僕…」
ふわふわと浮かぶ雲の匂いに、ほんの少しだけ“あの人”の残り香を感じた。
胸がきゅうっとなった。
「……僕はあの頃の僕が好きだったんだ。
犬として過ごして、飼い主と一緒にいた日々。
全部忘れたくない。捨てたくない。」
しっぽをギュッと握りしめながら言うと、
神様はふふ、と笑った。
「なるほどのう。
ならば、レオン。お主には、特別な力を授けよう。
獣人の姿となる術。
大切な何かを強く感じた時、その姿を解放できるようにする。」
神様の提案に、空気がきらきらと揺れた。
まるで、星が微笑んだように。
「それって…空の匂いを感じた時も?」
「うむ。空の匂いか…。そうじゃの。それは懐かしい気配という事かのう?
その空の匂いとやらが心を揺らすとき、お主の姿は魂の形になれるぞい。」
僕は目を細め、そっと鼻を鳴らした。
あの頃の匂いが、今もどこかで僕を待っている気がした。