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カタツムリの償い

作者: 清水進ノ介

カタツムリの償い


 季節は夏。ざあざあと雨が降る、梅雨のこと。一匹のカタツムリが、葉っぱの陰で、体を休めていた。このカタツムリは、自分の体よりも、ずっと大きなカラを背負っている。ずっしりと重みがあり、カタツムリが潰れてしまいそうなカラだ。雨の勢いはおさまらず、むしろ強くなっていく。森の中から動物達の鳴き声は消え、雨粒が大地や石ころを叩く音が響く。カタツムリがその音に耳を傾けていると、ぴしゃりぴしゃりと、カエルが濡れた落ち葉の上を、跳ねる音がそこに混じった。


「わぁ、大きなカラのカタツムリさん。こんにちは」

「あぁ、こんにちは。カエルは雨の日でも元気だな」

「だけど跳ねすぎて、少し疲れちゃった。隣で休んでもいい?」


 カエルはカタツムリの隣に腰を下ろし「なんでそんなに、大きなカラを背負っているの?」と尋ねた。カタツムリは「知らないよ」とぶっきらぼうに返した。生まれたときから、ずっと背負ってきたカラだ。なんでと聞かれても、元々そこにあっただけなのだ。カタツムリは「なぜおれだけが、こんなにも重いものを背負わないといけないのか。こんなにも辛いのか。人生というものは、あまりに理不尽じゃないか」と、自らの苦しみを吐露した。それを聞いたカエルは、けろけろと笑うと「覚えてないなら、ぼくが教えてあげるよ」と言った。


「カエルの長老が言ってたよ。カタツムリのカラの中には、人間だった頃の罪が詰まってるんだって」

「それじゃあなんだい、おれはカタツムリの前は、人間だったのかい」

「人間のときに罪を償わなかった奴は、神様がカタツムリに変えてしまうんだ。重いカラを背負って、地面を這う罰が与えられるのさ」


 カタツムリは、それが本当だとしたら、はた迷惑な話だとため息をついた。自分が犯した過ちならまだしも、前世の罪なんて背負わされては、たまったものではない。しかし今生の苦しみの理由が分かったことは、カタツムリにとって救いだった。なぜ自分だけが、こんなにも大きなカラを背負っているのか、こんなにも苦しまないといけないのか。その苦しみの意味が分かっただけでも、未来に対して希望が持てる気がした。この人生で苦しみに耐え、罪を償ったならば、きっと来世では、これよりまともな生活が出来るだろう。


「どうだい、カタツムリさん。きみが望むなら、ぼくがそのカラを外してあげてもいいよ」

「いいや。おれはこのカラを背負ったまま、必死に生きるさ。じゃあな、カエルくん」


 カタツムリがそう言ったとき、隣にいたはずのカエルは、姿を消していた。雨はいつの間にか弱まり、雲の切れ間から、太陽の光が、カタツムリの行く道を照らす。カタツムリは重いカラを背負ったまま、大地を這って進み出した。


おわり

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