第98話 邪神ちゃんと邪神集会
卵を使った料理はあっという間に話題になり、種類もどんどん増えている。
ペコラも過去の料理のレシピを思い出しながら、どんどんと料理を作っている。過去のレシピを一番知っている邪神はペコラなので、料理の種類はペコラ次第なのである。フェリスが知っているのはペコラと蛇の邪神から再現してもらったものに限るので、種類は二人には到底及ばないのである。
小麦と卵と乳と砂糖があれば、お菓子にしろおかずにしろその種類を膨大に増やす。恐ろしいまでの万能食材なのだ。
デザートの類は本当に種類を増やし、ケーキをはじめとして本当に二号店のメニューが豊富になった。卵の供給が追い付かないので数量限定ではあるものの、それでも売れ筋の上位を独占するに至ってしまった。
「甘い物に飢えてるのかしらねぇ」
「物珍しさもあると思うのだ」
営業を終えるとくつろぎモードのフェリスたちは話をしている。たまには邪神の面々が揃うのだ。
「まったく、ヘンネが来ただけですげえ変わったな」
「ヘンネ姉さんの計画性はおそろしいです」
久しぶりにルディとハバリーも混ざっていた。ルディはほとんどジャイアントスパイダー用の餌や料理用の肉の入手に奔走していて、村には結構不在だ。
ハバリーも金属工房で金属の抽出に勤しんでいるので、ほぼ缶詰め状態であった。
そんな二人がこうやって酒場を兼ねている食堂に居るのは、フェリスが呼び掛けたからだ。この二人はフェリスの言う事には基本的に逆らわない。
「こうやって揃うと、昔を思い出すな」
「そうねえ。よく集まっては酒盛りもしましたっけね」
ヒッポスとクーも、うっとり懐かしそうにしている。
「まったく、みなさんも昔と変わりありませんね。揃うだけで一瞬で当時に戻った気がしますよ」
ヘンネも懐かしそうな発言をしている。これには他のみんなも一様に頷いている。
「できあがった性格などそうそう簡単には変わらないのだ。所属する環境で多少は変わるけれど、基本的には変わらないのだ」
ペコラが料理を運びながら話している。そういえば、聖教会に一時期ではあるものの所属していたペコラである。どことなくその言葉には説得力があった。
「やれやれ、引きこもりをやめて外に出たかと思えば、ずいぶんと賑やかになっちゃったものよね~……」
フェリスもコップをくるくると回しながら、半ば愚痴めいた風に話している。
「フェリスってばどうして引きこもりになったんだっけかなぁ」
「ルディは覚えてないのかなのだ。フェリスの元主の魔族が悪名高かったせいなのだ。それで眷属であるフェリスもその身を追われたのだ」
「そう、あたし自身はこの通り『超』が付くくらいのお人好しなんだけど、主様のせいで石とか投げられたっけかなぁ」
意外なフェリスの過去話である。
「フェリス様ってそんなおつらい過去をお持ちなのですね。可哀想です……」
眷属として付きまとっているメルは、当然この場にも同席していた。
「毛皮を剥ごうとする者まで居たもんね。だから、最終的にはあの祠に逃げ込んだのよね」
ニート邪神の完成である。
とはいえ、強力な魔力に惹かれる者は多く、祠に引きこもりながらもいろいろやらかしたのがフェリスである。それでも祠が討伐隊などに発見される事はなかった。おかげで今日まで無事だったのである。
「ま、何をやっていたかなんてのはよく覚えてはいないけれどね」
「討伐隊まで出ていたから、相当な事はしてたのだ。でも、あーしの知るところではないのだ」
悪い顔をしているフェリスだが、本当に当時の事はほとんど覚えていないらしい。まあ、長く生きているとどうでもいい事というのはどうしても忘れてしまうものなのだ。つまり、フェリスにとってはもうどうでもいい事なのだろう。
「私は覚えていますよ。本当に些細な事ばかりでしたけれど」
「何してたっけ」
「毛皮を剥ごうとした腹いせに、街道の看板を逆にするとかそんな程度ですよ。当時一番悪名高い魔族の眷属だった上に毛並みが美しい事もあって、フェリスの事を狙う連中はたくさん居ましたからね。何かある度に犯人としてフェリスを指名する事が多かったのですよ」
ヘンネがしれっと全部話していた。つまりはフェリスを捕まえて名声を上げようとするエゴである。フェリスもフェリスでやらかしてはいたのだが、聞けば聞くほど悪戯レベルの話だった。とはいえ、濡れ衣で命を狙われた腹いせにすれば可愛いものだった。
「フェリス様ったら……、何をなさってたんですか」
「し、仕方ないでしょう。あたしの自慢の毛並みを毛皮にしようだなんて、殺されそうになったら抵抗するのは当然じゃないの!」
フェリスの言い分も分かるがゆえに、メルはそれ以上の言葉は慎んだ。
まあ、そんなこんなでフェリスはどうにか無事に生き延びて、時が流れて今のフェリスメルがあるわけで……。本当に世の中何があるか分かったものではないのだ。
わいわいと騒ぐ邪神の一団を中心として、食堂は夜中まで騒がしかった。こうしてまた、フェリスメルの平和な一日が過ぎていったのである。




