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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第89話 邪神ちゃんと鳥の飼育

 土壁の中にクルークを連れていくヘンネ。クルークも実におとなしくヘンネの後についていき、土壁の中で落ち着いてしまった。さすがに自分の上位の存在には逆らえないようだった。

「屋根のある部屋を造りますので、そこに敷く藁を持ってきてもらえますか?」

 ヘンネがそう言うので、村人たちは手分けをして、置きっぱなしになっている麦藁をかき集めてくる。その間にヘンネはクルークの休む屋根付きの部屋と、飼育スペースと外との間に掃除道具などを置く部屋を土魔法で造っていた。これだけ大規模のものを造ってしまうあたり、邪神という存在の魔力の多さというものを改めて実感せざるを得なかった。

「藁を持ってきました」

 そう言って戻ってきた村人たちの手には大量の麦藁が抱えられていた。

「その量をもう一度持って来て下さいますかね。クルークの巣はかなりふかふかなんですよ」

 ヘンネは持ってきた麦藁を置いてもらうと、もう一度同量の麦藁を取りに行かせた。村人が出ていったのを確認すると、アファカとメルの前でクルークの休む部屋に麦藁を全部抱えていく。村人数人がかりで持ってきた麦藁を、たった一人で担ぎ上げてしまうあたり、邪神は身体能力も高い事を思い知らされる。

「今は番の数も知れていますからね、この程度でも十分です。しかし、定期的に安定した数を確保できるようにしようとすると、この数を10倍程度に増やさなければなりません。その時の事を考えて、この広さで造らさせて頂きました」

 藁を敷き詰めながら、ヘンネが説明している。クルークはおろか、鳥の飼育という事を経験した事のないアファカとメルは、ヘンネの説明に聞き入っている。

 ちなみにこの間もクルークはおとなしく広場を散歩していて、まったく逃げ出す様子がなかった。さすがにヘンネが居る間は、その命令に従うようである。さすがは鳥の邪神。

 ようやく藁を持った村人たちが戻ってくる。その藁を加えた事で、ようやくクルークたちの寝床が完成したのである。

「それでは、全員が揃いましたので、クルークの飼育方法について説明致します」

 長かったのだが、ようやくこれでクルークに関しての話に進めた。

「というわけです。クルークの気性は温厚ですので、ちゃんと世話をしていれば、卵を奪ったとしても襲ってくる事はありません。ただ、必ず3個はそのまま孵らせてあげて下さい。さすがに子どもが生まれなければ全滅してしまいますからね。よろしいでしょうか」

 長かったヘンネによるクルークの飼育方法の説明が終わる。

 重要なのは雌1羽につき卵を3個必ず残すという事である。いくら魔物で寿命が長いとはいっても、子どもが生まれなければいずれは減ってしまうからだ。

「最初に産んだ卵を確認したら、必ず私に声をかけて下さい。残す卵として印をつける魔法を使います。これはクルークも認識できますので、必ずその印のついた卵は残して下さい。ものすごい勢いで蹴り飛ばされますので、無事でいたいならこれは必ず守って下さい」

 ヘンネの忠告に、さっき聞いたクルークの説明が加わって、村人たちは激しく首を縦に振る事しかできなかった。村人たちだって死にたくないのである。なんと言っても、怒ったクルークの蹴りは大木すら蹴り倒してしまうのだ。そんな攻撃を人間が生身で食らえば、当然ながら最低でも骨折である。ジャイアントスパイダーにも劣らぬ危険度の付きまとう任務、村人たちにはそれなりの覚悟が必要なのだった。

「とはいえども、クルークの卵はそのおいしさから最低でも銀貨級の価格が付きます。それと商人であるなら、クルークの卵は全部取るなというのはご存じのはずですよね?」

「それは聞いた事がありますね。全部取らなければ命が危険にさらされる心配はない、と」

「そうです。子孫が残せるのであるなら、卵を持っていかれる事はクルークにとっては些事なのです。一羽でも孵れば、それは必死に子育てしますのでね」

 というわけで、ヘンネからクルークの飼育方法を聞いた村人たちは、早速その世話を始めた。

 クルークの餌は村で採れた作物だ。小麦の殻、リンゴやオレンジといった果実、後は刻んだ芋。そのどれもクルークはおいしく食べる。さすがは雑食の鳥だった。

 クルークが卵を産むタイミングは早朝だ。新鮮なものを確保するのであれば、早朝から構えておく必要がある。そのための隣の部屋である。仮眠所のような場所も備えているので、、泊まり込んで様子を見るという事ができるのである。ヘンネにはその辺のノウハウが蓄積しているので、フェリスと違って最初から準備万端なのだ。それ以外にもありとあらゆるものを作っておくヘンネ。完璧主義ではないが、効率的な方法を考える傾向があるのだ。だからこそ、、行き当たりばったりなフェリスとの相性が悪いというものである。

 まあ、そんな事はさておき、こうやってヘンネの入念な準備の上でクルークの飼育が始まったのであった。一体、どのような食生活の変貌をもたらすのだろうか。実に楽しみでならなかった。

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