第87話 邪神ちゃんと急な訪問者
昨日よりも客数が少なく、目立ったトラブルもなく3日目の昼のピークは余裕を持ってやり過ごす事ができた。やはり外部からの客がほとんどなので、相当に変動があるようだった。
というわけで、昼ピークが無事に過ぎた事で、ペコラによる新作料理というか二号店で出す料理のお披露目となった。
「あーしの能力を使えばこれくらいはできるのだ。入手が少し大変なのは砂糖と卵なのだ」
「あー、砂糖と卵かぁ。砂糖はとある植物を搾って採れるんだけど、その植物がこの辺じゃ手に入らないのよね。甘味大根ってそのままな名前してるんだけど」
ペコラの言い分にフェリスが反応している。
砂糖の材料について、これは絶望的かと思ったのだが、それは意外なところから情報が出てくる。
「甘味大根なら知ってますよ。この村でも栽培してる人居ますから」
「な、何ですって!?」
従業員の一人が手を挙げて発言すると、フェリスとペコラが大声を上げてその従業員に詰め寄っていく。
「は、はい。移住者居住区にいらっしゃる方ですけれど、種を持ち込んで栽培を始めたそうですよ」
「な、なんて事。移住者居住区ってあまり行かないから、これは迂闊だったわ」
従業員の説明を聞いて、フェリスは不甲斐なさに頭を抱えた。移住者居住区は、間に川が挟まっているせいでなかなか足が向かなかったのだ。
「あとで案内してちょうだい。あたしの魔法を使えば明日にでも収穫できるわよ」
「は、はあ……。畏まりました」
フェリスの勢いに、従業員はとても抜けた返事をしてしまったが、フェリスたちは特に文句は言わなかった。
「となれば卵かしらね。卵って、確か鳥の卵よね?」
残る問題点にフェリスは頭を捻っている。
「そうなのだ。その辺りはヘンネにでも訊ければいいのだが、どこに居るのか分からないのだ」
「あー、ヘンネかぁ。几帳面だからなぁ、あの子は。自由なあたしとはちょっと相性が良くないのよね」
卵の確認しをしていたら懐かしい名前が出てきたのだが、その単語を聞いたフェリスは腕を組んで悩み始めた。
「相性が良くないのではありません。そもそも反りが合わないのですよ」
突如として外から大きな声が聞こえてくる。
「げっ、この声は……」
フェリスがすごく嫌そうな顔をする一方、ペコラが食堂のホールに出て顔を覗かせる。
「おー、ヘンネなのだ。懐かしいのだ。どうしてここに来たのだ?」
ペコラがヘンネに駆け寄っていく。ところどころに赤いメッシュの入った金髪にモノクル、それと翼の形をした腕が特徴的で、ピシッとした半鳥人の女性、それが鳥の邪神ヘンネである。それにしても、食堂の奥の厨房でしていた普通の会話だというのに、どうして聞こえたのだろうか。ヘンネは地獄耳の持ち主なのだろうか。
「たまたまフェリスの話が耳に入りましてね、懐かしく思って訪問した次第です。まったく、自由なところは変わっていませんね」
「へ、へ、ヘンネ……」
ずかずかと入ってくるヘンネ。ペコラと同じようにホールに出たフェリスが少し震えている。ヘンネはフェリスが苦手としている数少ない邪神仲間なのである。
「しかし、無計画ながら、ここまで規模を大きくできたのは、フェリスとしてはなかなかだと思いますよ。人望だけはありますからね、あなたは」
モノクルをくいっとして、無表情のままのヘンネ。心の内が本当に読みにくい相手である。
「私が来たからにはご安心下さい。必ずやもっと規模を大きくしてみせましょう」
「いやいや、そこまで大きくするつもりないからね? ここは元々簡素な村だったんだから」
「これだけ売れる要素があるのです。この規模で終わるのはあり得ない事ですよ」
現れるなりやる気十分なヘンネに、のんびりといきたいフェリスが対立する。これだからフェリスが苦手としているのだ。
「ヘンネ、待つのだ。いきなり大きくしようとしても、村の人たちがついていけないのだ。それこそ順序立ててすべきなのだ」
「ふむ、そうですね。外部の者がいきなり取り仕切るというのは、確かに反発を買ってしまって、効率が落ちてしまいますね。これは失礼しました」
ペコラが必死に訴えると、ヘンネがどうにか治まってくれた。
「この村の経営はフェリスと商業組合のアファカさんと、それと商人のゼニスさんの手で行われているのだ。話を詰めるのならアファカさんに話を通すのがいいのだ」
「分かりました。先程の卵の件といい、少しお話をさせて頂きましょう」
ヘンネがそう言うものだから、
「メル、ヘンネを案内してあげて」
「分かりました、フェリス様」
メルに案内を任せる事にした。そして、ヘンネはメルに連れられて食堂を出ていくのだった。
「いやはや、あの方もフェリス様のお仲間の方なのですか?」
「うん、まあ、そうよ」
フェリスはどっと疲れたように、テーブルに手をついて項垂れていた。
「ま、まあ、ヘンネはアファカさんに任せるのだ。とにかく二号店で出す料理の試食をするのだ」
ペコラはそう言って、厨房へと向かって料理を始めた。
うーん、どうにも嵐が起きそうな予感がするのである。




