第86話 邪神ちゃんと二号店
二号店を建てるとなれば、もう行動は早かった。
場所は村の本体方向の出入り口付近。規模は今あるものと同等のものを建てる事になった。設計図はすっかり頭に入っているのか、午後になってフェリスが様子に見に行くと、余裕のある村人が集まってせっせと建て始めていた。さすがは幾棟も建ててきた建築のプロ。日が暮れる頃には一階部分がほぼ建て終わっていた。
「相変らず速いわね。この食堂には隣に兵士の詰所を造っておいて下さい。ここは職人街の入口ですから、守衛も兼ねます」
「分かりました。フェリス様」
フェリスは周りをくるくると見回し、細かい指示を出していく。新しい食堂を建てている位置は意外と周りの見通しが利く。なので、兵士の詰所を造ると同時に、食堂の屋上には見張り小屋を追加しておく。
これだけ注文を出しても、翌日の夕方には外観は完成してしまうだろう。
となると、内装と販売する食事内容を考えなければならない。職人街の本店と同じメニューでもいいが、それでは味気ない。村で獲れる食材をベースに新しい料理はできないか、フェリスはペコラと相談する事にした。
「というわけよ。何かいい料理はないかしらね。あたしの知識じゃちょっと思いつかないのよね」
家に戻ったフェリスは、開口一番、ペコラにそう告げた。
「話は分かったのだ。となると、まずはこのフェリスメルで獲れる食材を確認する必要があるのだ」
さすがはペコラ。聖女の食事すら作った事のある邪神は、こういう時には頼りになるというものだ。
フェリスメルで手に入る主な食材は次の通りだ。
まずはメルの実家からは、牛の肉とミルク。主要なたんぱく源である。
次に小麦。これからは主にパンが作られる。ピザの生地など、いろいろな用途がある。
それから芋。これはジャガイモのようで、煮物や焼き物の添え物として活躍している。
それにリンゴやオレンジといった果実類。現状は搾って果汁にしている。
あとは村をたまに襲ってくるボアの肉といったところである。
「ふーむ、これだけあれば結構作れそうなのだ」
どうやらペコラの中に何種類かレシピが浮かんだようである。さすがは商人で料理人な邪神ペコラである。ペコラは早速料理に取り掛かっていた。
「ペコラ、毎日料理があるんだから、無理しないでよ」
「分かってるのだ。とにかくあーしに任せるのだ」
一応フェリスが注意をしておくが、ペコラは気合いを入れて料理を続けていた。こうして力を入れ過ぎて熱中してしまうのは、なるほどフェリスの仲間だと感じさせられてしまう。
「ふあ~あ、あたしは先に寝るからね。ペコラも適当なところで区切りをつけて寝なさいよ」
ペコラからの返事はないが、フェリスは目を擦りながら眠りについたのだった。
フェリスが眠ったその後も、家の台所からは音が鳴り響いていたので、ペコラは真夜中までは頑張っていたようだ。
翌日は早く起きたフェリスたち。
「おはようなのだ、フェリス」
「おはよう、ペコラ。まったく元気そうね。真夜中まで起きてたくせに……」
まったくもって元気そうなペコラに、フェリスはちょっと引いていた。
「ははは、どうして知っているのだ?」
「あれだけ音が響いていればね。寝ていても音だけは拾っちゃうから、この耳」
まったくもってフェリスイヤーは地獄耳である。
「フェリスは怖いのだ」
寝てても聞かれているという事実に、ペコラは震え上がった。
「ま、それはそれとして、できあがった料理を見せてもらうわよ。実物披露は、職人街の食堂に行ってからね」
「了解なのだ」
というわけで、食事を済ませたフェリスたちは、早速職人街の食堂へ向かった。
途中では必ず二号店の前を通りかかる。すると、今日中に完成させるべく、すでに大工たちが仕事を始めていた。本当に朝早い。
「おはようございます、フェリス様」
フェリスに気が付いた大工たちが挨拶をしてくる。
「おはよう、もう仕事を始めているのね」
「はい、フェリス様の頼みとあっちゃあ、早めに仕上げてしまうつもりです。見てて下さい、夕方には完成させますから」
「早いのはいいですけれど、強度もしっかり保ってちょうだいよ。たくさんの人が入る場所なんだから」
「それはもちろんでさぁっ!」
大工たちのやる気に反応に困るフェリスだったが、簡単に挨拶を交わすとそのまま職人街の食堂の本店へと向かった。
「フェリスから相談を受けた結果、二号店はこっちとは違う味で展開するのだ。甘味を中心として売り出すのだ。こっちとの共通はピザくらいで、残りはパンとデザートを主体としたお店にするのだ」
開店前の会議で、ペコラはそう大々的に二号店の方針を語った。
「同じ村の中で同じ店を出す意味はないのだ。となれば、趣向の違う店で勝負をするのだ。料理の見本は昼を乗り越えた後で出すので、楽しみにするのだ」
とにかくペコラからの勢いに押された開店前であった。
こうして、多くの従業員がお楽しみを抱えたまま、お持ち帰り開業3日目を迎えたのである。




