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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第72話 邪神ちゃんとその魅力

「やあ、ハバリー。クモどもの餌はここにおいておけばいいのか?」

「ヒッポス……、そこでいいよ」

 今日のヒッポスはジャイアントスパイダーの飼育場にやって来ていた。巨体であるヒッポスは怖がられるかと思ったのだが、ジャイアントスパイダーたちは思ったより平然としていた。その光景に、ルディが何かを言いたげだったのは言うまでもない。

「しかしまぁ、このクモどもを飼うなど、よくもまぁ思いついたものだな。確かにこのクモどもの糸は、伸縮性や丈夫さから言えば使い道はいろいろあるがな」

「うん、そうだね。でも、ストレスの有無で毒性にまで影響してるとは思わなかったね。ルディの結界内なら自由だから、あまり負担にはなってないみたいだよ」

 ジャイアントスパイダーたちを見ていろいろと思うヒッポスに、ハバリーはそのクモたちの特性を話していた。

 その目の前では、村の子どもたちがクモと戯れている。この光景には最初は驚いたものだったが、今では完全に慣れてしまっている。クモたちも子どもたちを襲うような気配はないし、本当に安心して見ていられる。あれからクモの数も増えたのだが、その増えたクモたちも、子どもたちにはとても懐いていた。

「この村も不思議なものだよな」

「うん、そうだね」

「まあ、これもそれも、最初に顔を出したのがフェリスだからかも知れないけどな。まるっきりボクのように見た目が魔族だというのに、どういうわけか警戒心を抱かせない不思議な雰囲気をまとっているからな」

「うん、猫って不思議な魅力を持ってるよね」

 ハバリーが最後にそう言うと、ヒッポスは「そうだな」と笑っていた。妙に不思議と納得のいく言葉だったから。

「さて、今日のスパイダーヤーンはこれだけかな」

「うん、それだけ。フェリスのところに、持っていってあげて」

「分かった。またな、ハバリー」

 ヒッポスがひょいと、スパイダーヤーンの束を持ち上げると、ハバリーの言葉に従ってフェリスが今住んでいるという家へと向かっていった。

「ほらよ、フェリス。今日の分のスパイダーヤーンだ」

「うん、ありがとう。今日も結構な量ね。さすがヒッポス、これだけの量を一気に運べるなんて」

 どさどさっとものすごい音を立てて、フェリスの家の一室にスパイダーヤーンが置かれる。この部屋の床には地面の汚れがついたり、壁の気に引っ掛からないように周りにはボアの毛皮が張り巡らされていた。フェリスの魔法でちゃんと加工された物なので、汚れはつかないし物も引っ掛からない優れものである。

「まあな。でも、ボクの力じゃ、ルディやクーには敵わないね。あの二人の腕力は別格だよ」

「謙遜しなくてもいいわよ。あたしよりは十分力は強いんだから、ね」

 フェリスはこう言いながら、運び込まれたスパイダーヤーンの品質を確認している。

「うん、質は問題なし。毒性もないみたい。これならすぐに商業組合に卸せるわね」

 フェリスは満足げにしている。クモたちはすっかり村に慣れてしまっていて、ほとんどストレスを感じていないようなのだ。ルディの結界のおかげで外には出られないものの、逆に敵意ある者が中に入ってこないので安心できるかららしい。毒性がついてしまえば毒抜きの作業が加わるので、その作業をすっ飛ばせるのはとても楽でいいのだ。

「そういえばフェリス」

「なに、ヒッポス」

「新しい魔法を身に付けたんだってな。見せてくれよ」

「んー、魔法縫製の事だったら、別に構わないわよ。あたしが布にしてから売った方が価値が高いからね」

 何か目ざとい事を言いつつ、フェリスは魔法を使ってスパイダーヤーンを布へと変えていく。まずは撚って束ねた糸に変えて、それをさらに布地へと変えていく。この間、わずかの数十秒である。

「へー、これがあのクモの糸からできた布か。確かに手触りがかなり違うな」

「でっしょ。あたしやメル、ペコラの着ている服なんかはこうやって魔法縫製で作ったものなのよ。着用する人によって大きさが自動的に変わるから、相手の体の大きさを調べなくても済むのよ」

「そいつは便利だね。さすがフェリスだな」

 ドヤ顔を決めながら説明するフェリス。メルは拍手をしているし、ヒッポスも素直に感心している。

「そうだ、ヒッポス」

「なんだい、フェリス」

「これからこれを商業組合に持っていくから、もうひと頑張り頼めるかしら」

「ああ、構わないよ」

 そういうわけで、またスパイダーヤーンの束を担ぎ上げるヒッポス。そのヒッポスを連れて、仲良く布を分け合って歩くフェリスとメル。なんとも目立つ集団で、歩くたびに村人たちから挨拶をされていた。

 本当にフェリスは村の人たちから愛されている。同じ魔族からだけでなく、人間からもこれだけ好意を向けられるのは、もはや特技と言っていいだろう。フェリスにその気がなくても、その場に居るだけで不思議と和んでしまうのだ。図体が大きくて人に恐れられる事の多いヒッポスとしては、羨ましい限りの能力だった。

「だからこそ、ボクはフェリスに惹かれたのかもね」

「ん、何か言った?」

「いいや、何も」

 ヒッポスの呟きにフェリスが反応したので、ちょっと驚きながらもごまかすヒッポスだった。

 今日も村には、フェリスを中心とした笑顔に溢れているのだった。

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