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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第67話 邪神ちゃんと産地ピンチ

 商業組合に戻ってきたフェリスたちだったが、中はまだものすごく混んでいた。本格的に村の名を売り出す事にしたわけだが、まさかこれほどまでの大盛況になるとは思っていなかった。

 フェリスメルで生産される物のうち、対外的に輸出しているのはスパイダーヤーン、小麦、そしてチーズである。あとの物は日持ちしないので、交易品としては向いていない。木工細工にしても皮革製品にしても、とても対外的に出せるような品質のものではないので、これらも村の中だけのものとなっていたのだ。

 フェリスが商業組合の中の声を聞いてみる限り、やはり問い合わせの多くはそれのようだった。村で直接買い付けるからと言って、買い叩く気満々な商人まで居る模様。しかし、アファカたち商業組合の職員たちだって商人だ。そういった交渉ではまったく負けるつもりはなかった。というわけで、いまだに絶賛舌戦が繰り広げられているというわけである。

「アファカさん、すごい熱気ですね」

 フェリスが声を掛けると、アファカがフェリスの方を振り向く。

「あー、フェリスさん、戻ってこられたんですね。すみません、このような状況ですので、とても打ち合わせのできる状態じゃないです。本当に申し訳ありません」

 アファカが顔を覗かせて、フェリスに謝罪してきた。いやはや、さすがにこれで責めるような人物はいないだろう。

「うわっ、なんだこいつ。魔族か?!」

 さっきは気付かなかったくせに、今回はフェリスに顔を向けてきた商人の一部が、その姿に驚いていた。

「魔族というか、邪神ですけれどね。この村の名前フェリスメルのフェリスっていうのはあたしの名前ですので、そこのところよろしくお願いしますね」

 フェリスは大人の対応で商人に言い返すと、改めてアファカを見た。

「今日のところは諦めますね。今後の事を考えたらもう少し話を詰めたかったのですけれど、これでは仕方ありませんからね。交渉事を任せてしまってすみませんね」

「いいえ、フェリスさんがあれこれしてくれたからこそ、この大盛況なんですよ。本当にありがとうございます」

 フェリスとアファカはお互い責めるような事はせず、労いの言葉を掛けていた。そして、結局まともに商業組合の建物に入る事もできず、フェリスたちは商業組合を後にしたのだった。

 正直ここまでの忙しさになるとは思っておらず、フェリスは少々後悔していた。これだったら早めに相談しておくべきだったと。なにぶん引きこもっていたので、最近の事情には疎いのだ。金属工房の開業に向けた状況の確認もしたかったのだが、あの様子では明日も厳しそうだ。正直フェリスはどうするか悩んだ。

 ちなみに、この混み具合が発生したのには理由がある。それというのも先日。

「といわけで、フェリスメルの拡張に当たって、宣伝をしてきてもらいたいのです。産業自体には目玉がありますし、スパイダーヤーンを餌にすれば、それなりに人が呼び込めると思うんですよ」

「確かにそうですね。私たち隊商が通り道にしていた場所ですから、そもそもの人通りはありますし、十分可能だと思います」

 ゼニスは前回の訪問時に、フェリスといろいろと話をしていたのだ。そこで彼は村を立ち去る際に、部下に命じてあちこちへとフェリスメルの事を触れて回っておいたというわけである。

 その結果がどうなったかというと、見ての通りの惨状というわけだった。なにせ宿はパンク状態だ。空いている家も使うなどして、どうにかやって来た商人たちを捌いているというありさまだった。

「こうなると、食料に不安が出るわね。メル、農場巡りに行くわよ」

「はい、フェリス様」

 問題が表面化する前に、私はどうにか間に合わせるべく農場へと向かった。


 農場へやって来たフェリスは、とにかく農場の人とまずは話をする。するとやっぱり、状況はかなりまずいようだった。

「収穫は追いつきませんし、何より次の旬はもう来年ですからね。このままでは村の食い分もなくなってしまいます」

 農家の人が泣きついてきた。はたで見ても厳しそうなのに、当事者たちはもっと深刻だったようだ。

「仕方ないわね。正直使いたくなかったけど、緊急事態よ」

 フェリスは農家の人を宥めるのをメルに任せて、農場の中へと歩み入っていく。

「……無理させちゃうけれどごめんね」

 フェリスが謝罪を入れながらリンゴの木一本一本に額を当てながら撫でていく。すると、リンゴの木が淡く光ったような気がした。

 こんな感じで、フェリスはリンゴの木、オレンジの木、小麦の農場、メルの実家などを次々と回っていっては、その一つ一つに優しく接していった。

「正直、この手段は取りたくはなかったけれど、村のみんなのためなら仕方ないわよね」

「はい、私もそう思います」

 メルの実家の牛を相手にしながら、フェリスはしょんぼりとした顔でメルと話をしていた。そして、

「あーこういう湿っぽいの無し! あたしは邪神、そういうのは似合わないのよ!」

 と唐突に叫んでいた。それに対してメルは一瞬目を見開いて固まっていたが、フェリスに顔を向けられるとつい笑みがこぼれてしまっていた。

 しかし、村に来たばかりの頃に無意識に起こしてしまっていた恩恵を、まさか意図的に行う事になるとは思っていなかった。それゆえにフェリスは、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていたのだった。

 とりあえず、これで急場が凌げるかどうか。フェリスは不安に思いながらもその夜はゆっくり休んだのだった。

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