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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第65話 邪神ちゃんと最終チェック

「いやはや、これはまた立派な工房ができてしまいましたな」

 職人街を訪れたゼニスがハバリーが作った工房を見ながら驚いていた。ちなみにこの建物は土魔法だけで造られている聞いて、ゼニスはさらに驚いていた。ハバリーは大胆かつ繊細なのである。それがゆえにこれだけの建物が建てられたというわけだった。ちなみに、この工房に至るまでの地面に驚いていた。よくよく見てみれば一枚の巨大な薄い石でできていたのだから、これに気が付いて驚かないというのは無理である。

「これでしたら、うちで暇を持て余している職人を送り込む事ができますよ。工房裏の居住区もしっかりしていますし、頷いてくれるとは思います。ただ……」

「ただ?」

 褒めてはいるものの、ゼニスが急に表情を曇らせた。何か問題点があったというのだろうか。

「作った物を売り出すスペースがあると助かりますね。これでは作っても披露する事ができません」

「あっ、そういえばそうですね」

 ゼニスの指摘に、フェリスは失念していた事を認識した。

「そうよ、装備屋とか雑貨屋とか、あと倉庫も作らなくっちゃいけなかったですね」

 フェリスはいろいろと指摘された足りない部分を補う案を出していく。そして、ついて来ていたハバリーに声を掛ける。

「ハバリー、この辺りの空いたスペースに今言った建物を建てられる? もう面倒だから二階建てにして全部まとめてしまいましょ」

「うん、分かったわ」

 というわけで、工房脇の空いたスペースにハバリーは移動する。そして、すうっと息をすると、次の瞬間、工房に負けず劣らずの大きな石の塊が現れたのだった。

「こ、これが、邪神による魔法……。確かに人間のそれとは規模が違い過ぎる」

 ゼニスが驚く横で、フェリスの指示に従って石の加工をしていくハバリー。あっという間に二階建ての石造りの建物が完成してしまった。ところどころに柱を残して安定感を残し、邪神パワーで外壁などの強度もばっちりである。屋根は水が溜まらないように傾斜が付けられている。

 建物の中は一階が武器防具のお店、二階が装飾品などの雑貨屋さんとなっている。階段は店内に一か所と工房から直接つながった外の階段の、合計二か所に作られた。濡れる事による危険を防ぐために滑り止めもばっちり施す。たまにやらかす事はあるフェリスだが、こういう点では抜かりはなかった。

「テーブルとかカウンターは、木材を使って作りましょうか。やれるならハバリーが石でやっちゃいますけれど、やっぱり石だと味気ないんですよね」

「あ、ああ。そういう事なら任せておいてもらって結構です。そういった職人も手配しておきますよ」

 ゼニスの表情は引きつったままである。ハバリーの魔法の規模に驚かされてしまって、表情がそう簡単には戻らないのである。

 ゼニスはそんな状態のままだったが、新たに建てられた店舗の中身を見て回り、いろいろとレイアウトを考えていった。その中でアファカを呼び出して、必要なものを次々と伝えていた。

「問題は窓ですかね。石造りでは窓の設置が難しいのですよね。石に木を打ち付けるわけにはいきませんからね」

「それだったら、こういうのでどうでしょう」

 あごに手を当てて考え込むゼニスに、フェリスが提案をする。すると、石の一部が変化して、木を挿し込めるように変化させたのだった。

「ハバリーの魔法で作られた石ですからね、要望に応えてこのように変形させる事ができるんですよ」

 フェリスがもの凄く自慢げに言っている。この魔法は確かにハバリーが使っているのだが、実はフェリスも規模は負けるものの似たような事ができるのである。だからこそ自慢げにしているのだった。

「これはすごい、寸法を測ってもいいですかな?」

「どうぞどうぞ。私たちはその間にアファカさんと頼まれたものの相談をしていますので」

 話がつくと、ゼニスは店舗として作られた建物の内部の寸法を、連れてきた商人たちと一緒に測っていた。棚やカウンター、窓やテーブルに椅子など、内部装飾品を揃えるには必要な情報である。ゼニスたちには熱がこもっていた。

 本当に一度火のついた商人は仕事が早い。天井までの高さも肩車をしてまで測っていた。根性である。

「いやはや、フェリスさんたちに出会えて本当によかったと思いますよ。この世にはまだ知らない事がたくさんあるのだと、その身に染みて分かりましたからね」

 ゼニスの顔が満面の笑みである。

 そんなこんなで、フェリスメル職人街のオープンに向けて、最終的な調整が行われている。食堂や簡易宿泊施設でも手の空いた村人が入って入念に準備を進めている。こちらの方で使っているのは村で採れた特産ばかりだし、料理なども慣れた人物があたっている。邪神メンバーからもペコラがこっちの指揮を執る事になっている。ペコラは料理人だし、商人だし、なによりも相手を強制的に眠らせる魔法が使える。これならトラブルになっても安心だろうという配置である。

「任せるのだ。あーしの腕の見せ所なのだ」

 ペコラはとにかく気合いが入っていた。どんと胸を叩いて、フェリスたちの前で自信たっぷりに宣言していた。

 そうしていよいよ、工房を除いた職人街の施設の稼働日を迎える事になったのだった。

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