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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第57話 邪神ちゃんと雨の一日

 朝食を済ませたフェリスたちだが、雨だからといってもサボれない事はあるものである。

「じゃ、俺はクモどもの様子でも見てくるぜ。俺の結界があるから、この程度の雨はどうって事はないだろうが、餌くらいはちゃんと用意してやらねえといけねえからな」

 ルディはジャイアントスパイダーの様子を見に出掛けていった。怯えられているとはいっても自分が捕まえてきたクモたちなので、それなりに責任を感じているようである。

 先日リンゴが好物である事が判明したクモたちだが、飼育場に植えたリンゴの木はまだ成長過程にあるので、実を付けるにはまだ時間が掛かりそうなのである。なので、今はまだ外部から餌を運び込むしかなかったのだ。ルディはそれをしに出掛けて行ったというわけである。なんだかんだで、意外と世話好きなルディなのであった。

 そういえば、ゼニスに頼まれていた魔法縫製の鎧下などの服はもう完成しきっていた。大半はスパイダーヤーンでできているが、全体の2割くらいは羊毛で作られている。肌触りにどうしても差が出てしまうものの、フェリスとペコラの恩恵を受けた羊毛がそんな劣悪品質になるわけがなく、後はゼニスが取りに来るのを待つばかりである。

「一応、商業組合に持ち込んでおいた方がいいかしらね」

「そうですね。このまま置いておいても邪魔になるだけですし、然るべきところに保管してもらうのが一番だと思います」

 フェリスが積まれた服を見ながらメルに話し掛けると、メルからはそういう答えが返ってきた。

「だけど、持っていくのは今日でなくても別にいいのだ。雨の中出かける奴なんてそう居ないのだ」

「うん、そうだね。雨の中持っていくと服が濡れて品質が下がる。避けた方が賢明だと思うよ」

 それに対して、ペコラとハバリーもそれぞれに意見を言ってきた。なんだかんだでこういう事にも詳しい二人なのである。

 ハバリーは人見知りが激しいものの、黙っていれば人間に平然と混ざれたのだ。だからこそ、人間社会の文化もそこそこ知っているのである。

 まあ、それはともかくとして、フェリスたちはその忠告に従って、完成させた服はフェリスの家の一室に積まれたままになったのだった。


「おー、今戻ったぞ」

 やる事もなく部屋でゴロゴロしていると、ルディが家に帰ってきた。ちょうどお昼の前頃なので、狙いすましたかのような帰宅である。

「お帰りなさい、ルディ様。ジャイアントスパイダーたちの様子はどうでしたか?」

「おお、あいつらなら今日は俺に近寄ってくれたよ。雨で子どもたちも来ないから寂しかったのかも知れねえな。近所で獲れたウサギを何匹か処理して与えてきたから、今日のところはあいつらのご飯も大丈夫だぜ」

 メルが出迎えると、ルディは事細かに状況を報告してきた。なるほど、何気に機嫌がよかったのは、普段避けられているクモたちとじゃれ合えたからのようである。

「状況から察するに、仕方なくルディは構ってもらえたような感じね。晴れの日になったらまた避けられるわよ」

「フェリス、あんまりな事を言わないでくれっ!」

 ひょこっと顔を出したフェリスがばっさりと言い切ると、ルディはフェリスに泣きついていた。これまた珍しい光景である。じゃれ合いはあっても、泣きつくなんて事はまずない二人の関係なのである。

 とりあえずルディを慰めたところで、お昼にする。今日のお昼はチーズ入りのパンとシチューだった。

 本当にメルは眷属化で得た知識をうまく活用しているようである。なにせ、パンにチーズを入れるなんて発想は今まで見た事がないからだ。このフェリスメルでもなされた事はない。それをメルは見事に考え付いたのである。

「本当にメルはいろいろ考えついてくれるわね。偉い偉い」

「えへへへ……」

 フェリスに頭を撫でられて、メルはとてもご満悦なようである。フェリスの反対隣に座るルディがその光景を羨ましそうに見ていたが、フェリスは気付きながらも思い切りスルーしていた。フェリスとルディの関係はそういう関係なのである。

 昼食を食べ終わると、

「それじゃ、あたしはちょっと村の周りを見てくるわ。こういう天気の時って、それに乗じてやって来るような奴も居るかね。あたしはここじゃ天使って言われるわけだし、崇められるだけっていうのは性に合わないわ」

 フェリスはそう言って、メルが心配そうに見守る中を出掛けていった。

 フェリスは背中にある羽で飛ぶ事ができるし、魔法もかなり潤沢に使える。これは最初にフェリスを眷属化した魔族からの影響が原因である。これらの恩恵をフェリスはうまく使いこなす事ができているのだ。

 雨が降りしきる中、フェリスが上空からフェリスメルを見回す。さすがに人通りはない。わずかに出歩く人の姿は確認できたが、農作業や家畜の世話程度である。

「うん?」

 フェリスが村の外周に見回りを移した時だった。上空から見る限り、怪しい動きをする影があった。

「旅人っていう動きじゃないわね。一人が先行して動いて、それに残りがついていく……。これは盗賊だわ」

 フェリスの判定がそう下ると、そこからは実に一瞬だった。はい、ドーン!

 上空からフェリスが魔法弾を撃ち込むと、怪しい動きをしていた連中はそれにびびって動きを止めた。

「はいはい、このあたしが居る限り、この村で悪さはさせないわよ」

「なっ、魔族?!」

「その姿、やっぱり盗賊ね。狙いが悪かったわね。あんたたちの命運もここに尽きるわ」

 次の瞬間、盗賊たちは一瞬でフェリスに捕らえられてしまった。

「別にこの村から奪おうとしなくても、村の住民になれば裕福に暮らせるわよ。あたしが居るんだからね」

 フェリスは雨の中、魔法で拘束した盗賊たちをずるずると引き摺って村へと戻っていった。捕まった盗賊たちは、フェリスの圧倒的強者感に、完全に震えて黙り込んだのだった。

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