第50話 邪神ちゃんとハバリー
無事に羊の群れを牧場に帰す事ができたフェリスたち。牧場の一角で眠ったままになっているルディとハバリーの顔に、フェリスは思いっきり大量の水を魔法でぶちまける。
「ぶわっはぁっ!」
「あばばば……っ!」
二人とも無事に目が覚めたようである。
「お目覚めかしら、二人とも」
フェリスは笑顔で凄む。その気迫に、ルディとハバリーは思いっきり怯んでいた。なんだかんだ言っても、この面々のリーダーはフェリスなのである。
「とりあえず、ルディは後でお仕置きよ。それはともかくとして、ハバリーがここに来た理由っていうのは何なのかしら」
「お、おい。お仕置きってなんだよ、フェリス!」
フェリスのお仕置きという言葉に、ルディが慌てている。過去何度となく凍り付かされているので、それがすぐに頭をよぎったようである。よく見れば、体を震わせているではないか。よっぽどルディは、フェリスのお仕置きが堪えているようである。
だが、騒ぐルディはメルに任せておいて、フェリスはハバリーと向かい合っている。
「理由ねぇ、単純にフェリスに会いに来ただけだよ。深い意味はないよ」
「そっか。本当にそうなの?」
「私が嘘を吐くと思う?」
ハバリーの言い分を疑うフェリスに、ハバリーは滅茶苦茶怒ってくる。
「あはは、それでこそハバリーね。嘘が大っ嫌いだもんね」
「まったく、フェリスったら私で遊ばないでくれる?」
ハバリーは腰に手を当てて、じーっとフェリスを見てくる。頬を膨らませているので、本当に怒っているようだった。
「うん、本当にごめんね。最近のあたしはまた知名度出てきてるらしいから、ちょっと警戒しただけよ。だからそんな怖い顔をしないで頂戴ね」
フェリスは慌てて取り繕おうとしていた。その慌てっぷりにハバリーは困惑の表情を浮かべていた。
かと思うと、突然、ハバリーは思いっきり笑い出した。その様子に、思わずフェリスの目が点になる。どう反応したらいいのか困っているのだ。
「いやまぁ、ごめん。フェリスが昔のまま変わらないんで安心したんだよ。相変わらず魔族らしくないよな、フェリスって」
「ちょっと、そこまで笑わなくてもいいでしょう。そんなにあたしって、魔族らしくない?!」
「ああ、自称で邪神を名乗りながらも、それっぽい事した事なんてあったっけ?」
フェリスの反応が可愛いせいで、ハバリーはお腹を抱えて笑い続けている。頭が前後する関係で、目隠れになっている前髪の隙間から、金色の目がちらちらっと顔をのぞかせていた。
「ハバリーの目は相変わらずきれいな金目なのだ」
羊を落ち着けて合流してきたペコラが喋ると、ハバリーは慌てて目を隠した。どうやら目を見られるのが恥ずかしいらしい。
「目は、見ないでほしい……」
「まったく、相変わらずハバリーはキャラが安定していないのだ。喋り方がめちゃくちゃなのだぞ」
慌てて目を隠したハバリーに、ペコラは冷静にツッコミを入れていた。本当にハバリーのキャラは安定していない。
「そういうところはボアらしくないのだ。自分のキャラにも一直線になればいいのだ」
「そ、それができれば、何も困りませんよ!」
ペコラの言い分にも、ハバリーは大変ご立腹だった。
「はぁ、とりあえず、これ以上ここに居て喋っていたら、牧場の人たちに迷惑よ。とりあえずあたしの家に移動しましょう」
「うむ、そうなのだ」
よく周りを確認してみたら、牧場を営む家族たちがフェリスたちをちらちらと見ていた。確かにこれ以上は迷惑だろう。というわけで、フェリスたちはその家族たちに挨拶を済ませると、さっさと家へと引き上げていった。
ようやく家に戻ってきたフェリスたち。するとメルが自分に洗浄の魔法を使う。知らない間に魔法を使えるようになっていたメルだが、すっかり魔法の使い方にも慣れたものである。
「それでは、ご飯を用意致しますね。フェリス様たちはお風呂を浴びてこられるといいかと思います」
「うーん、そうね。そうさせてもらいましょうか」
よく見れば、地面に寝かされていたルディとハバリーの二人の汚れ具合が特にひどい。という事で、ご飯作りはメルに任せて、フェリスたちはお風呂に入る。その間もまぁ、久しぶりに会った邪神軍団は賑やかだった。ルディとハバリーはさっきの事もあってかどうにも仲が悪そうだった。そこにフェリスの雷が落ちて、静かになるという具合だった。その様子は調理場まで丸聞こえで、メルはくすくすと笑っていたのだった。
しばらくしてさっぱりしてお風呂から出てきたフェリスたちを、メルがにこやかに待ち構えていた。
「今日のご飯は、フォレストバードの肉を使ったものになります。いつもならボアの肉なのですが、ハバリー様がいらっしゃるという事で、今回はちょっとやめておきました」
「いや、そういう心遣いはいいぞ。私らにとって食べる事は供養なのだからな」
「そうなのですね。それでは次からはそうさせて頂きます」
ハバリーがそう言うので、メルは遠慮がなさそうだった。
「まあ、とりあえず食べながらあたしたちが解散した後の、今までの様子をいろいろ聞かせてもらおうじゃないの」
「うむ、そうなのだ。あーしも気になるところなのだ」
というわけで、食事をしながらお互いの昔話を始める事になったのだった。




