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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第33話 邪神ちゃんと新たな住民

 のどかな農業と牧畜の村に似つかわしくない、実に立派な木造建築の群れが出現した。村人総出で建てられたその建物は、フェリスの手によって強度チェックが行われた上で合格を貰い、更には強化魔法までかけてもらった立派な建物たちである。ちなみに木造なのに火をつけても燃えない。その効果はルディの炎ですら防ぐ。

「はぁ? 木なのに燃えねえってどういう事だよ?!」

 フェリスは自分の木像に同じ魔法を掛けてルディに燃やしてもらおうとした。燃えたらラッキー程度だったが、まったく燃える事はなかった。

「さすがフェリス様ですぅ……」

 メルが感動して、恍惚とした表情でフェリスを拝んでいる。さすがにちょっと怖い感じである。

「……まあ、見ての通り、インフェルノウルフであるルディ、しかもあたしと同じように神格に近付いた魔物の攻撃ですらこの通り。これでご安心頂けましたか?」

 にっこりとフェリスが笑うと、立ち会っていた村長たちは無言で激しく頭を前後に振っていた。

(ちっ、この像燃えちゃえばよかったのに……)

 フェリスが内心こんな事を思っていたのだが、それが表情として出たのがただの恐怖として伝わったようであった。

 といった感じで、外部の人間を迎える準備は整いつつあった。とはいっても、まだ建物などの設備だけで、そこで働く従業員たちはこれからである。

 だが、そこはゼニスが力を貸してくれた。この村のこれからに期待をして、わざわざ自分の所属する商会から従業員を寄こしてくれたのだ。名前の無いような村だったので、最初は渋られたらしい。しかし、スパイダーヤーンや食べ物の事を聞くと、段々と行く気になっていったそうな。……決め手がフェリスだと聞いた時は、開いた口が塞がらなかったが。まあ、何にしても、人材にもそれほど不安が無くて済むのはいい事である。

 で、商業エリアが完成した翌日には、早速ゼニスが商談を兼ねて再来した。

 ゼニスが村にやって来る頻度が上がっている。それくらいにはスパイダーヤーンの需要が高いようなのだ。まぁ、最初の売ったものの数倍の量なら常時生産できるようになったのでさして問題はない。

「まあ、この子がフェリスちゃん?」

「すげぇ、全身の毛並みは白いのに、髪だけ真っ赤だぞ」

「くぅぅ、栄転を蹴って来たかいがあるものだ」

「はわわわ……、可愛い……」

 村にやって来た従業員たちは、フェリスを見るなりメロメロ全開だった。その様子に、フェリスがドン引きする。

「ゼニスさん、この人たち大丈夫なんですか?!」

 さすがに気持ち悪すぎて、フェリスはゼニスに怒鳴りつける。

「ええ、大変有能な方々です。ただ、フェリスさんが可愛すぎただけなのです」

「あたしは、邪神よぉっ?! 可愛い言うなーっ!」

「可愛いーっ!」

 ゼニスの言葉に、フェリスは嫌悪の絶叫をするが、その反応は実に逆効果だった。男女問わず従業員たちは、すっかりフェリスの虜だった。

「はぁ、頭が痛いわ……」

 フェリスは両手をだらりと下げてがっくりと項垂れた。もうどうとでもなれ。

「フェリス様は可愛いだけじゃないんです。優しくかっこいいんです」

 落ち込むフェリスの横で、メルが胸を張ってドヤ顔を決めている。

「メ~ル~……」

 メルの言い分に、頭だけ起こして猫背状態のフェリスが、実に怨めしい顔でメルを見ている。だが、今のメルにそんな視線は通じない。フェリスを愛でる同士ができて喜び一杯だからだ。

「はっはっはっはっ! 諦めろフェリス。お前がどんなに言ったところで、こいつらはまともに聞きそうにないぞ!」

 そのやり取りをにやついて見ていたルディが、大口を開けて笑う。ついイラっときたフェリスは、気が付いたらその顔面に右ストレートを打ち込んでいた。

「あっ、ごめん。つい」

「ついで顔面陥没させようとするなっ!」

 ルディが顔をさすって怒っている。それに対してフェリスはルディ相手だと遠慮はまったくなく、もう一撃入れようかと睨みつけていた。

 さすがにこのやり取りは、従業員たちの気を引き締めるには十分だった。怒らせたらどうなるかを、目の前で見せつけられたのだから。軽率な行為は自重しよう、従業員たちは固く誓った。

 ルディが体を張ってくれたおかげで、この後のやり取りは実にスムーズだった。村で働く予定の従業員たちには村の中をとにかく見てもらった。そしたらば、やっぱりジャイアントスパイダーには腰を抜かしたようである。あの大きさのクモはさすがに一度はこうなってしまうものなのだ。

 ただ、村の見学の最後でとんでもない事実が判明した。

「私どもの暮らす家は、どちらになりますか?」

「あっ!」

 そう、従業員たちの家が無かったのである。仕方がないので、営業開始前の宿屋をしばらく仮の住まいとする事にして、急ピッチで従業員たちの家を建てる事になったのであった。

「いやはや、面目ない」

「はははっ、こういう村ですからな、仕方ないとは思いますよ」

 村長は額をさすりながら謝罪し、ゼニスは苦笑いをしながらフォローをしていた。

 しかし、これによって従業員たちから宿の改良点などの指摘が出され、本格的な外部解放に向けての下準備が進められていったのである。

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