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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第29話 邪神ちゃんとお菓子

 ジャイアントスパイダーたちは村の子どもたちに任せておけばいいので、フェリスは次の行動に出る。

「うーん、水は引いてきたし、服を作る糸も確保したし、村はそもそも農牧で成り立ってるから、余計な文明は入れたくはないわね」

 ひと通り村の見回りを終わらせたフェリスは、家でミルクを飲みながら唸っていた。

「フェリス様、どうされたのですか? さっきから唸られていますけれど」

 メルが心配そうに、小麦粉とリンゴで作ったお菓子を持ってきながらフェリスに話し掛ける。その声に、フェリスはくるりと頭を後ろに反らして反応する。

「うーん、村はのどかな方がいいから、これからどうしたものかなと考えてたのよ」

「そうですね。この村はあくまでのどかな農牧の村ですから、みなさん今のままでも十分満足されてますし、フェリス様がいらっしゃるのならこれ以上は望まないでしょうね」

 お菓子をテーブルに置きながら、メルはフェリスの悩みに答えている。

「まあそうよね。今回あたしたちが手を加えた水源とクモたちだけでも、十分すぎる変化だものね。これが街だったらまだ上を目指そうとするんだけど、村だもんなぁ……」

 フェリスはお菓子をまじまじと眺めながら、いろいろと考えているようである。

「うーん、どうしたものかしらね」

 悩んでもいても埒が明かないフェリスは、メルが作ってきたお菓子をひょいとつまんで食べる。

「あっふっ……」

 ちょっとまだ熱かったようなのか、フェリスは苦悶の声を上げる。らしくない油断である。

「だ、大丈夫ですか、フェリス様!?」

 メルが慌てている。だが、フェリスは口を押さえながらも大丈夫と言わんばかりに手を出してメルを制止した。

「ごめん、油断してたわ。焼きたてだったのね」

 フェリスはミルクを飲んで落ち着くと、驚いた顔をしながらメルの持ってきたお菓子を眺めていた。

「あっ、はい。申し訳ございませんでした、フェリス様。ひと言申し上げればよろしかったのですが……」

「いや、いいのよ。悩み事してる最中に、確認もしないで口入れたあたしが悪いんだから」

 メルが必死に頭を下げて謝罪する一方で、フェリスの方も自分の不注意だと言って責めようとはしなかった。この二人の関係は、ただの主従関係でない事がよく分かる光景である。

「ふぅ、熱さに驚いちゃったけど、これ結構甘くて面白い食感をしてるわね。小麦粉の部分がサクサクしてるけど、上に乗ったリンゴがしっとりとした感じで」

「はい、村の主要な農産物である小麦とリンゴを使って何かできないかと、試行錯誤した上で完成させたリンゴクッキーなんです。小麦粉を水で溶いて固めて、柔らかいうちに細かく切ったリンゴを乗せて焼き上げたものなんですよ」

 フェリスの感想に、メルは嬉しそうに明るい顔をしながらお菓子の説明をしていた。

「何度も焼きすぎちゃって焦がしたりもしましたけれど、どうにか成功させるに至りました」

 お菓子を乗せてきたお盆を笑顔で抱き締めるメル。フェリスに褒めてもらえてとても嬉しそうである。

「へえ~、メルって結構こういうの好きなのね」

 フェリスはお菓子をじろじろと見ながら、メルの事を褒めている。そして、何かを思いついたようである。

「牛乳と小麦粉と果物があるんだし、いろいろ面白い料理とか作れそうね。あと芋も使えそう」

「わあ、それは面白そうですね。私もせっかくなのでいろいろ作ってみたいです」

 フェリスがにんまりと良からぬ事でも思いついたような顔をすると、メルもそれに乗っかる。これはまたとんでもない事になりそうな予感がする。

 今はちょうど賑やかでうるさい、毒見役のルディも出払っている。何かをするにはちょうどいいタイミングなのだ。というわけで、台所にフェリスとメルの二人が立って料理を始めた。

「とりあえずはさっきのリンゴクッキーでも作ろうかしらね。それで安定して作れるようになれば、オレンジも試してみない?」

「それはいいかも知れませんね」

「牛乳を発酵させたチーズもあるし、これは結構いろいろ試せそうだわ」

 フェリスとメルは、二人で楽しく料理を始めた。料理とはいっても今のところはお菓子作りである。フェリスもメルも甘いものは大好きなのだ。二人でわいわいと相談しながら、あれこれ試しに作ってみている。

 結果として、リンゴクッキーとオレンジクッキーのチーズあるなしで四種類のお菓子を作り上げていた。芋は今のところ出番はなかった。なにせ、夕食の時間を迎えてしまったからだ。ここまでも試行錯誤でたくさん食べている。二人とも女の子だからちょっと気になってしまうものがあるから仕方がない。

「芋を使った料理は、また明日にしようね」

「はい、そ、そうですね」

 夕食の時間だというのに、お菓子の試食で食べ過ぎてしまった二人なのであった。それだというのに、食べ切れなかったお菓子はまだ山のようにあり、フェリスはそれを仕方なく戸棚に入れて保存魔法を掛けておいた。

「これで誰もこのお菓子に触れられないわよ。傷む事も無いし、村の人にも試食してもらいましょう」

「そうですね、フェリス様。お裾分けだなんて、お優しいです」

 両拳を握って明るく微笑むメル。その眩しいまでの笑顔に、フェリスは正直引きつった。ただ無駄が出ないように処分するだけなのに、なんでそんなに褒められなければならないのか、つい自分が邪神だという認識が素直にメルの称賛を受け止められないでいるフェリスなのであった。

 ちなみに翌日配ったこのお菓子は、村の人たちにも好評だった。そして、朝に戻ってきたルディの手にも渡って、目を輝かせて喜んでいる姿にフェリスがドン引きしていたのだった。

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