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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第27話 邪神ちゃんの交渉術

「ゼニスさんね。ところで聞きますが、あたしの名前はご存じですか?」

 フェリスはすぐさま探りを入れる。このフェリスの質問にゼニスは少々驚いたが、すぐに冷静になる。

「ええ、知っていますとも。邪神の一人として伝わっておりますからね」

「あ、やっぱりそうなんですね」

 すんなり答えるゼニスに、実にさっぱりとしているフェリス。フェリスとしては邪神として知られているだろう事は、最初から警戒していた事だ。だが、思ったより軽い反応を返されたので、フェリスもつられたような形である。

「あ、あの。天使様、邪神とは一体?」

 村長がおろおろとしながら尋ねてくる。その姿に、フェリスどころかメルまでが引いていた。

「村長様、フェリス様が散々ご自身は邪神だと仰ってられたではありませんか。今さら驚くような事なのですか?」

 メルはどうやらフェリスの言葉を信じていたようだ。さすがは敬虔なフェリス信者である。珍しいメルの態度に、村長は驚いていた。

「ははははっ、どうやらフェリスさんはずいぶんと村では崇められているようですね」

「まぁそうですね。あたしが撫でたり触れたりした動物や植物が、つやつやしたりおいしくなったりとかしましたからね。ゼニスさんも理解した通り、ほぼすべてがあたしのせいなんですよ」

「ほぼと仰るあたりは、とても謙遜されてますね」

「ほぼなのは実際ですし、あたしは邪神ですから、あまりいいイメージは持たれたくないんです」

 村長とメルを目の前に、フェリスとゼニスの言葉の応酬が繰り広げられる。

「それよりも気になるのは、あたしがよその地域ではどう伝えられているのかって事ですね。この村はあたしの存在はうっすらとしか認識されてなかったようですからね。ただでさえあたしの住んでいた祠から一番近いのに」

 真剣にゼニスを見て話をするフェリス。その様子にはゼニスも答えないわけにはいかないようだった。

「そうですね。私の知る限りの邪神フェリスのお話をしましょう」

 こうして、ゼニスによる邪神フェリスの言い伝えが始まった。

 しかし、この話をさせたのはフェリスにとってマイナスでしかなかった。自分でも忘れていた黒歴史を掘り起こす事にはなったし、その上、事実無根なものまで紛れ込んでいたのだ。話が終わった時には、フェリスの顔が髪の毛並みに真っ赤になるくらいになっていた。正直穴を掘って埋まりたい気分である。横でルディが大笑いしているのだから余計にそういう気分になるし、今すぐルディの顔面に拳を一発食らわせたい気分である。

(大事な交渉の場だから、それはやめておきましょう)

 フェリスは自重した。いくら邪神だからといっても空気は読める偉い子なのだ。

「何と言うか……、今のフェリス様と大して違わなくありませんか?」

 メルが誰もが思った事をばっさりと言ってのけた。だから、この子は肝が据わりすぎでしょう?

「実際に邪気を浴びて邪悪化していたらしいですけれどね。過去の文献も少しながら見つかっていますし、伝えられている話をまとめてみたところ、少なくとも見た目のせいで邪神と呼ばれていただけのようです」

 ゼニスははっきりとそう結論付けた。さすがにフェリスはショックである。邪神である事に誇りを持っていたというのに、それが無残にも打ち砕かれたのであった。フェリスの横では、ルディが更に笑いこけている。

「うるさい、ルディ」

「うごがっ!」

 さすがに我慢の限界を超えたフェリスは、ルディに裏拳を叩き込んで黙らせた。

「失礼致しました。もうあたしの話はいいので、交渉を再開して下さいませ」

 もうこれ以上傷を抉られたくないフェリスは、本来の話へと切り替えさせる。

「こほん、そうでございますな。フェリス殿の力の影響でよくなっているとしても、距離を取った時にどうなるのか分かりませんので、今回はとりあえず据え置きで買い取らせて頂きます。もし質が落ちずに高品質のままであったのであれば、次回の仕入れの際に発生した差額の分をお支払いするという形にさせて頂きます」

 さすがは慣れた行商人。リスクに対してしっかり予防線を張っている。そして、ちゃんと取引先にも不利益が出ないように配慮をしている。これは信頼できる人物と言えるだろう。

「それは妥当な判断ですね。あたしも自分の力にそこまで絶対的な自信があるわけじゃないですから、疑われても文句は言えませんね」

 フェリスはゼニスの対応を評価している。それを聞いた事で、村長もようやくゼニスの言い分を理解できたようである。

 基本的に村の人間には学ぶ機会がないので、知識がない事が多くて騙されやすいのだ。だが、今回は知識も知恵もあるフェリスと、それに影響されたメルが居るので、騙すのは不可能なのだ。まあ、ゼニスはそれ以前から誠実な男ではあるようだが。

 そういうわけで、今回の契約についてはフェリスが書面で確認を行う。紙自体も高価なものではあるが、契約のような需要なものは形にして残しておくものである。口約束だけでは真の邪神たちのようにいいように扱われてしまうだけだからだ。フェリスはそうやって朽ちていった人間たちをたくさん見てきている。だからこそ、ここまでお人好しになったのかも知れない。

「ええ、これで問題ないですね」

「いやはや、私の方が冷や汗をかいた契約は久しぶりでしたね」

「あら、そうなのですね。という事は、あたしは商人ゼニスに冷や汗をかかせた女って事で伝説になるのかしら」

「はっはっはっ、そこまでは分かりませんが、自慢はできると思いますよ」

 フェリスとゼニスはにやりと笑ったかと思えば、大声で笑い始めた。

「ああ、そうだ。あのジャイアントスパイダーの糸は需要が出ると思いますので、できれば増産をお願いしたいですね」

「あら、この段階でそんな風に言うなんて、商人の目には特別に映ったのかしらね」

「ええ、そうですね。この手触り感は、特に婦人方から人気が出ると思われます。今回の量ではせいぜい数着しか作れませんので、飼育方法が確立されるまではこちらの村のみの特産となるでしょう」

「そうですか。分かりました。あたしの方でできる事はしておきましょう」

 こうして、行商人ゼニスとの取引が完了した。フェリスとゼニスはお互いやり切った感で満足しており、村長とメルは無事に終わった事に安堵をしていたのだった。

 しかし、この交渉によって、この村はこれまで通り平穏という風に行かなくなってしまうのであった。

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