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邪神ちゃんはもふもふ天使  作者: 未羊


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第20話 邪神ちゃんと村の水源

 ある時、フェリスはふと思った。

「メル、ちょっといいかしら」

「何でしょうか、フェリス様」

 村では若い部類のメルに、ちょっと聞いてみる事にした。

「村って水はどこから確保してるんだっけか。水源らしきものを見た記憶がないんだけど」

 そう、牛の世話にしろ料理にしろ、生活には水が欠かせない。だというのに、池や川といった物を見た覚えがないのだ。井戸はあったかも知れないが、フェリスの記憶にはとんと存在していなかった。作物はきちんと育っているし、料理で汁物だって作っている。だが、水の出所がまったくもって不明だったのだ。自分で料理した時は、無意識に水魔法を使っていたので気が付きもしなかった。

「この村の水源は、井戸ですね。ただ、目につく所にはありませんので、フェリス様が気付かれなかったのは無理がないと思います」

 メルは無表情で語り出した。説明的な時はどういうわけか表情が消えるメルである。確かにそんなに感情の要らない話なのだろうが、思いっきり表情が違うのでどうにも気になってしまうようである。ちなみに、フェリスの家の中にも井戸があった。メルはそこで水を汲んでいたらしい。

「そっかー、井戸なのね。結構重労働でしょ。水の量がそう多くないにしても深さがあるわけだし」

「そうですね。腕が鍛えられていいとは思いますが、確かに腰がつらそうでしたね」

 メルは何気に細かいところを見ていた。

「自動的に汲めれば楽だろうけど、一般人で魔法が使える人なんてそうそう居ないものね。もう少し安定的な水源、川とかあればだいぶ違うかしらね」

「それはそうかと思いますが、ここから湖や川なんてかなり距離がありますよ?」

「あら、あるの知ってるのね」

「お父さんに一度連れて行ってもらいましたから」

「なるほどね」

 どうやら距離はあるものの、一応水源は存在しているようである。しかし、確認すると数時間は掛かる場所のようで、それは確かに遠い距離であった。だが、フェリスならばそんなに遠いものとは思えなかった。なので、フェリスは早速行動に出る事にする。

「フェリス様、どちらへ?」

「ルディを連れて、水路を掘るのよ」

「ええ? そんな事されなくてもよろしいかと思います!」

 メルが慌てているが、フェリスはそんな事はお構いなしだ。

「あたしは自由気ままな邪神よ。何物にも縛られない、それがあたしのポリシーなのよ」

 本当にこの邪神、一度言い出したらまったく聞きやしない。それに、この近くの水源となると、フェリスにはちょっとした心当たりがあるのだ。

 そんなわけで、メルが必死に止めようとするのも聞かず、フェリスは最初に村の広場へ向かう。そこでルディを拾うためである。

「おっ、居たわね、ルディ」

 予想通り、いつも通りに村の子どもたちにもみくちゃにされるルディが居た。ただ、この子どもたちはルディの扱いが分かっているようで、ルディはすっかりリラックスし切っている様子だ。

「ルディ、たまには働いてもらおうかしらね」

「えー、面倒だな」

「世話になってるんだから、少しは役に立ちなさいってのよ!」

 気持ちよさそうに転がっているルディは、まったくもって動く気配がない。フェリスはそれを無理やり魔法で持ち上げる。

「ごめんね、みんな。ちょっと用事ができたから、しばらく留守にするわね」

 一応謝るだけ謝って、フェリスはルディを抱え上げたまま村から跳び去っていった。子どもたちはそれを手を振って見送っていた。


 さて、村の外へやって来たフェリスは、魔力の流れを使って水源を探っている。予想通りなら、メルが話していた水源にはフェリスに関係した何かがあるはずである。

「おーいフェリス。そろそろ離してくれよ」

 集中するフェリスに、ルディの声など届く訳もなかった。

「……あっち」

 何かを見つけたフェリスは、捕らえたままのルディを連れて一気に移動していく。その間、ルディが騒ぎまくっているが、フェリスは無視し続けた。

「ここね」

 フェリスは水源である湖を見つけて、そのほとりに降り立った。そして、ようやくルディも解放した。

「酷いぞ、フェリス。俺を動けないようにするなんて!」

「うるさいわよ、ルディ。それよりも……」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐルディを叱るフェリス。そして、すぐさま湖へと目を向ける。

「久しぶりね、居るんでしょ?」

 フェリスが声を掛けると、湖に突如として渦が現れ、そこから人の形をした水の塊が現れた。

「その声はフェリスですね。本当に久しぶりですね」

「おー、マイムじゃないか。久しぶりだな」

 マイムと呼ばれた水の塊は、ルディの声を聞くなり顔を顰めた。

「暑苦しい……、なぜインフェルノウルフが居るのです」

 本当に不機嫌そうである。炎と水は相性が悪いのだから仕方がない。

「マイム、本当に悪いわね。今回の事にはこいつはどうしても必要だから連れてきたのよ」

「……フェリスがそう言うのでしたら、今回は我慢します。それで、何の用で来たのですか?」

 マイムが訊いてくるので、フェリスは事情を説明する。するとマイムは驚いた顔をするものの、最終的には納得したようだった。

「それでしたら構いませんよ。私が居れば水の量の調節はいくらでもできますし、元の流域にも迷惑は掛からないでしょう」

「というわけで、ルディ。ここから村へ向けて溝を掘ってちょうだい」

 マイムの了承を得られたという事で、フェリスは早速ルディをこき使う。渋ったルディもご褒美の話を聞くと喜んで大きな溝を掘ってくれた。本当に犬ころである。

 そして、湖とルディの掘った溝を繋げるのはフェリスの役目で、マイムは最初の水の勢いの調節を担当する。

 ルディが言われた通りに穴を掘って、村の下流域に大きな穴を掘って戻って来ると、待ってましたとばかりにフェリスが湖と溝を繋げたのである。大規模に地形を作り替える、さすが邪神である。

 その直後の村には、突如として現れた大きな川に驚く声が響き渡ったのであった。村人たちが騒ぐ中で、なぜかメルはドヤ顔を決めていたのは内緒である。

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