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第184話 邪神ちゃんと水の精霊

 ざざざっと水が集まって姿を現したのは、水の精霊マイムだった。

「まったく汚らわしい……。その汚い手でフェリスに触れるなど言語道断」

 現れたマイムはものすごく怒っていた。大体フェリスの隣に立つ女のせい。

「マイム、ストップ。今はそういう話をしに来たんじゃないから」

「むぅ……。フェリスがそういうのなら、今は我慢しましょう」

 フェリスが慌てて止めると、身構えたマイムは咳払いをして戦闘態勢を解いた。本当にフェリスに結構懐いている。

 マイムがフェリスにここまでご熱心なのは、知り合った経緯というのがある。

 マイムはそもそも、名のないただの精霊の一人にすぎなかった。他の精霊と同じように気ままに過ごすだけの存在だったのだ。

 ある日の事、主を失いさまよい続けるだけの腑抜けた魔族だったフェリスと、まだただの精霊だったマイムとが出くわした。その場所がこの水源の森である。

 そして、フェリスに住処としてちょうどいい洞穴の事を伝えると、フェリスはお礼にと言ってその水の精霊に名前を与えた。その時からその水の精霊は、フェリスの友人であるマイムになったのだ。それによって力の増したマイムは、水源の森を自身の領域(テリトリー)として持つようになったのだという。

 自分にそれだけの力を与えてくれたフェリスなのだから、マイムがただならぬ感情を向けるのは仕方のない事だし、そのフェリスに近付く存在を簡単に許せるわけがないのだ。

 とまぁ、そんな事はさておいて、マイムはフェリスにやって来た目的を尋ねている。

「なるほどね……。あのおば……じゃなかった、ドラコ様の依頼でね。アクアバットなら、ここの左手を少し進めば生息してますよ」

 マイムが右手を上げて自身の右方向を指し示している。つまり、自分と向かい合うフェリスたちにとっては左手側になるという事だった。

「えっ、それ逆なんじゃ?」

 レイドが何気にツッコミを入れると、

「バカね。マイム様からしたら右手だけど、私たちからしたら左手よ。マイム様は私たちに左を向いて進めって言われてるの。そんな事も分からないの?」

 ブルムが速攻で説明を入れていた。さすがは魔法使い、頭の回転はいいようである。

「わっかりにくいなぁ……」

「ぶっぶー、レイドのおバカさん」

「おい、ピックル。少しは口を慎め。なんでお前はそう煽るんだよ」

 パーティー内で漫才みたいな事を始めている。なんでこんな状態でパーティーを組んでいられるのか。よく分からないものだ。

「しかしだな。俺たちでアクアバットを倒せるのかな」

「大丈夫ですよ。あの数のアクアバイトラットを撃退できたのですから、その半分以下のアクアバットなら対処できますよ。空を飛んでいるだけの雑魚ですよ」

 レイドが不安を口にすると、マイムはさらっと言ってのけてくれた。精霊にお墨付きをもらえば、なかなかに心強いものである。

「あのドラコが薬草栽培とは、ちょっと想像がつきませんね」

「まぁねえ。豪快が持ち味のドラゴンだもの。繊細な作業なんて普通は想像つかないわよね」

 まあドラゴンなんてものは図体がでかいから、そう思ってしまうのは仕方のない事だろう。

「でも、ドラコは結構細かい作業をするのよね。ほとんど人間の姿、しかも幼女の姿で過ごしているから慣れちゃったのかもね」

 フェリスがこう話すと、マイムは目を丸めて固まってしまった。

「……大体私に会いに来た時はドラゴンの姿だった気がしますけれどね……。そんな姿があるのなら、今度見せてもらいたいものですね」

 意外な事に、マイムはドラコの人間形態を見た事がないらしい。そのために、目を輝かせながら考え込んでいる。興味津々のようだ。

「薬草の栽培が安定するようになったら連れてくるわよ」

「約束ですよ」

 フェリスとマイムは約束を交わす。そして、レイドたちの方を見る。

「フェリスと知り合えた事を光栄に思いなさい。それと、フェリスにあまり馴れ馴れしくしないように。私の力で水の加護を消してやりますからね」

「うわぁ、精霊が脅してきた!」

 マイムの恐ろしい剣幕に、ピックルが本気でびびっている。

「諦めろ、自業自得の警告だ」

 レイドはピックルの肩に手を置いて、ふるふると左右に首を振っていた。

「それは困るわ。属性1個の加護が消えるだけでも、魔法によっては大きな影響が出るもの。ピックル、フェリスさんをも振るのは絶対やめなさいね」

「いやだしー。あの極上の手触りは諦められんしーっ!」

 ブルムにまで強く止められているというのに、ピックルはまだ駄々をこねていた。フェリスの肉球と毛並みはモフラーを狂わせる極上で魅惑的な手触りなのである。

 だが、最終的に恒常的にバフを失うよりはマシだと、ピックルはマイムから出された条件を渋々飲んでいた。ピックルの使う魔法には、それなりに水の属性の影響があるから仕方のない話なのだ。死活問題なのだ。

「ぜーったい認めてもらって、フェリっちをもふらせてもらうんだーっ!」

 ピックルは諦めが悪かった。その騒ぎっぷりにレイドたちもフェリスたちも呆れ返るばかりである。

 はてさて、こんな調子でアクアバットの討伐を終えて、ドラコの依頼を達成する事ができるのだろうか。少し不安になるフェリスだった。

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