表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/290

第182話 邪神ちゃんと行く水源の森

 ドラコからの依頼を受けて、レイドたちはフェリスに伴われてマイムの住む水源の森へと歩んでいく。

 ルディの足でも夜通し走る距離だ。人間の足で歩いていくとなると、到着には実に3日を要してしまうのである。フェリスメルとクレアールだと、クレアールの方が近いものの、結論からすれば誤差みたいなものだ。

 道中、フェリスメルにも時々突撃していたボアの群れに遭遇するが、レイドたちは思ったよりも苦戦していた。フェリスが居たから大事には至らなかったものの、正直こんな強さではドラコの依頼をきちんとこなせるかは疑わしい実力である。

 アクアバットとボアとでは、アクアバットの方が魔物のランクは上だ。しかも空を飛ぶ魔物である。それこそ特性を知っていないと、いいようにあしらわれてしまうのがオチである。そんなわけなので、野宿を行う際に、フェリスからアクアバットの特性について話をする時間を設けたのだった。

 さて、予定通りの3日後、マイムの管理する水源の森へとやって来た。

「ここが、アクアバットの出没する森ですか?」

 すっかりフェリスには丁寧語を話すレイドである。

「そうよ。ここはあたしの友人である水の精霊マイムが管轄する森よ。水辺が多いけれど、地面自体は歩きやすいわ。そして、マイムの影響によって水属性の魔物が多く出没する森なのよ」

 フェリスが確認するように説明くさい言葉を話している。

 水源の森は山のふもとに広がる土地で、その面積はかなり広い。迂闊に入ろうものなら迷ってしまいそうである。水源の森という名の通り、山からの湧き水が森の中心に湧き出して泉を形成しており、そこからあちこちへと流れる川の水源地となっているのだ。フェリスメル方向に引いた水路も、この森を水源としている。

「まっ、あたしがマイムのところまで案内するから、今回は迷わないと思うけど、迷ったら助けられないかも知れないからはぐれないでよ?」

 フェリスはにやりと笑みを浮かべてレイドたちを見る。

「いやーん、フェリっちのその表情たまんな~い」

 黙れピックルと思うフェリス。本当にフェリスの印象からしたらウザったらしいようだ。まあ、野宿をする間もひたすら抱きついてこようとしていたのだから、そりゃフェリスの顔も仏頂面になるというものである。残りの3人は比較的常識人だというのに、どうしてこの一人だけおかしいのだろうか。

 そんな感じで少々不機嫌なところもあるが、フェリスは四人を連れて森を分け入っていく。

「この辺りの魔物は比較的弱いから、ボアが倒せているみんななら問題ないでしょうね。問題は山に近い方の区域かしらね」

「つまり奥は魔物が強くなるという事でいいのかな?」

「端的に言えばそういう事ね」

 グルーンの質問に、簡単に答えるフェリス。

 水源の泉までは、とにかく川をたどっていけば着けるのでまだ迷いにくい。しかし、もし川を見失ってしまえば、同じような景色が広がる森は、侵入者に一気に牙を剥いてくる。森に入る前にフェリスが注意した事はそういう事なのだ。マイムは侵入者を基本的に快く思っていない。だから、助けられないかもフェリスは宣言したのである。

「それはそれとして、マイムが快く思っていないから、絶対にあたしから離れないでよ」

「はい♪」

 フェリスがそう言うと、ピックルがぎゅっとフェリスに抱きついてきた。こいつは油断も隙も無い……。

 その時だった。

 急にザザザザという音が聞こえてきたのだ。これにはレイドたちは驚いて身構えた。

「ああ、もう。あたしに急に抱きつくから、マイムが怒ってるじゃないのよ。本当にさ、あたしの話聞いてた?!」

 フェリスが叫んでいる。

「ええ、どういう事だってばよ~……」

 ピックルが眉をひそめている。

「マイムは嫉妬深いの。あたしに馴れ馴れしくするピックルを見て、ものすごく怒っているのよ。……さすがにこれは助けられないわ。試練だと思って戦ってちょうだい!」

 フェリスの言葉に、レイドたちは混乱している。

「ピックル、なんて事してくれたんだ!」

「あ、あたしのせいじゃないしー!」

「どう考えてもあんたのせいでしょ!」

「おい、来るぞ!」

 レイドたちが騒ぐ中、グルーンの声で全員が身構える。

「チュチューッ!」

 現れたのはネズミの群れだった。

 だが、このネズミは大きさが異常だった。

「キャー! なんなのよ、この大きさぁっ!」

 ブルムが悲鳴を上げている。

「あー、ブルム、ネズミ苦手だもんねー」

 それに対して、ものすごく冷めた反応をするピックル。とても元凶とは思えない冷静さである。

「フェリっちを独り占めしようだなんて悪い精霊さんの思い通りにはさせないしー!」

 ピックルは落ち着き払って詠唱を始める。

「バフいくよーっ!」

 ピックルが手を掲げると、レイドたちが光り始める。

「このネズミは『アクアバイトラット』。水をもかみ砕く凶暴なネズミよ」

「了解。さすが猫であるフェリっちには近づかないなー。うらやま」

「とぼけた事言ってないで、頑張りなさいよ。勝てばマイムは認めてくれるから」

「分かった。行くぞっ!」

 フェリスの言葉にレイドが気合いを入れる。

「まあ、ピックルだけは絶対許さないだろうなぁ、マイムの事だから」

 フェリスがボソッと言うと、

「うん? 何か言った、フェリっち?」

「なーんにも?」

 ピックルが反応するものだから、フェリスはとぼけておいた。

 何にしても、レイドたちには大量のネズミが襲い掛かっている。レイドたちは無事にネズミを撃退して、アクアバットの討伐というドラコからの依頼をこなす事ができるのだろうか。そして、ピックルはマイムに許してもらう事はできるのか。フェリスは淡々とその戦いを見守るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ