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第174話 邪神ちゃんと久しぶりの人

 フェリスがフェリスメルに戻った翌日の事、久しぶりにゼニスが村にやって来た。今回の来訪でもいろいろな商談を持って来ているようだが、最大の理由は新しい街クレアールについて情報を集める事にあった。商人というものは情報と新しいものに関して貪欲なのである。

「お久しぶりですね、ゼニスさん」

「いえ、こちらこそお久しぶりですフェリスさん」

 商業組合で顔を合わせた二人は、挨拶もそこそこにアファカも交えて本題へと入る。

「ほほお、コネッホさんとも知り合いだったのですね。魔族ながらに繊細な錬金術の使い手とお伺いしていますが、もう脈を作っておられるとは……」

 ゼニスは妙に感心している。

「いや、コネッホはあたしとは昔からの友人ですからね。ヘンネとかと同じ、邪神仲間なんですよ」

 困ったような顔をしながら説明をするフェリス。だが、ゼニスの反応は薄かった。

「コネッホさんの作るポーションは需要が高いですからね、取引ができるとなると、私どもとしてはこの上なく嬉しい事なのですよ」

「えっ、そう言ってるって事は、まだ取引してなかったわけですか?!」

 ゼニスの言い回しに驚愕するフェリス。ゼニスたちの商会がコネッホとコネがなかったのは意外だった。

「ええ、気難しいとか言われてますし、何よりモスレの商業組合が厄介でしたからね。今までは大体そこで弾かれてましたね」

「いやあ、ゼニスさんの所を突っぱねるとか、やっぱりあそこの商業組合も大概じゃないのよ……」

 ゼニスの話を聞きながら、フェリスはモスレに行った時の事を思い出していた。素材の管理が杜撰すぎて、話にならなかった覚えがある。あのコネッホが街の設立に関わっていながらのあの体たらく。呆れて物が言えないレベルである。

「うーん、紹介状を書きますので、それを見せてやって下さい。断るようならあたしが殴り込みに行きますから」

「ははは、それは実に心強いですね」

 フェリスがそんな事を言えば、ゼニスは口を少し引きつらせながら、口に拳を当てて笑っていた。

「あたしやドラコが口添えすれば、コネッホは門前払いなんて事はしないと思いますよ。必要なら何通でも書きますよ」

 フェリスは鼻息荒くそんな事を言っている。フェリスが引きこもりを止めてからフェリスメルの人間以外で初めて遭遇した人間たちだ。お節介を焼きたいのだろう。……ありがた迷惑にならなければいいのだが。

「あははは、でしたら、一通だけお願い致しましょうか」

 ゼニスの苦笑いが止まらない。しかし、フェリスのお節介が止まりそうになかったので、やむなくそれだけはお願いしておいた。本当にフェリスの暴走には困ったものである。ゼニスは心の中で盛大にため息を吐いていた。

「何じゃフェリス。ここにおったのか」

 話し合いの最中にドラコが乱入してきた。

「おや、確かドラコさんでしたっけか」

「おお、商会の若いの、来ておったのか。今日は何の用じゃ?」

 ドラコとゼニスが互いに挨拶をする。なかなかに和やかな雰囲気がある。

「はい、近くにできた新しい街についてお伺いに参りました」

「ああ、あそこか。なかなかいい感じに仕上がっておったぞ。なんならわしが連れて行ってやろう。わしの背に乗れば一瞬じゃからな」

「それはありがたいですね。すぐにでもお願いできますかな」

 ゼニスはものすごくわくわくして落ち着かないようだ。まあ、ドラゴンの背中に乗れるなどそう体験できる事ではないから仕方がない。

「フェリスメルの産物も含めて、向こうでお話ししましょうかね。向こうに行けばヘンネが居ますから、交渉事には影響がないと思いますし」

 そう言って、フェリスも立ち上がる。まあ、街の基礎を作ったフェリスも居なければ話にはならないだろう。アファカも止める気はしなかった。

「でしたら、私はこちらでの作業がありますので、商会との取引の話はヘンネにお任せしましょうか」

「すまないね、アファカ。ここでの仕事を押し付けてしまって」

「いいえ、ここでの仕事も楽しいですから、問題はございませんよ」

 ゼニスが謝ると、アファカは特に気にしていないという感じの答えを返す。その時のアファカの姿を見て、ゼニスはどことなく安心したようである。

「よし、そうと決まれば、早速クレアールに移動するとするかな。わしは先に出て門で待っておるからな」

 ドラコはどっこいしょといった感じで立ち上がって、商業組合の建物を出て行った。

「それでは私たちも準備しましょうか。アファカ、フェリスメルに関する資料を至急集めて下さい」

「承知致しました。こちらにございます」

 アファカは机の上に資料の束をバサバサと置いている。

「……早いね」

「元々資料をお渡ししてお話しするつもりでしたので、昨夜の間にすべて揃えておいたのです」

「そっか、これから行くという手紙を出しておいたからですか」

 アファカの素早い行動に、ゼニスはつい口元が緩んでしまう。本当に優秀な人材なのである。できればずっと手元に置いておきたかったゼニスなのである。

「それじゃ行ってきますよ。……アファカ、ここの事は頼みましたよ」

「はい、商会のために尽力させて頂きます」

 大真面目に返事をしたアファカを見ながら、ゼニスは柔らかな笑みを浮かべる。

「それでは出ましょうか」

「えっ、ええ、そうですね」

 二人の間にあった雰囲気に戸惑いながらも、フェリスはゼニスと一緒にドラコの元へと向かったのだった。

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