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第17話 邪神ちゃんの身の上話

 ルディが来てからというもの、本当に周りが一気にににぎやかになった。一人でうろついていたかと思うと、ひょろっとやって来てはフェリスに構えと駄々をこねる。それにつられるように村の子どもまで絡んでくる始末。それを嫌がりながらもなあなあで対応するフェリス。これがもはや、村では定番の光景となってしまっていた。正直フェリスは勘弁してほしいと思っている。

「はぁ、ルディの相手だけならまだしも、子どもたちまで絡んでくると断るに断れないわね」

「フェリス様は人気者ですものね。仕方ないと思いますよ」

 お昼を食べながら愚痴を言うフェリスに、メルは眷属というか巫女として仕えているので、この人気は当然だと考えている。なので、ちょっと冷めた言い方になってしまっている。だが、この微妙に存在している溝というのがこの二人の関係としてちょっと適切なように感じられるのだ。

「私はフェリス様の巫女なのですから、フェリス様も思う存分に私の事をこき使って下さい」

「いや、いくら邪神だからといっても、メルみたいな小さい子に無理も無茶もさせられないわよ。どうでもいい相手ならぞんざいに扱っても気にしないけど、眷属は別よ、べ・つ!」

 ある意味覚悟を決めているメルに対して、フェリスは予想外にも取り乱していた。敵対するなら遠慮なく雑に扱い、従うのであれば大切に、それがフェリスの信条なのである。これくらいなら別に邪神でなくても、そこらにごろごろ存在してそうな信条である。邪神という割に邪神らしくなくて天使と言われてしまうのにも、実はちゃんと理由があるのであった。

「そういえば、フェリス様ってご自身ではよく邪神と仰られてますけれど、本当に邪神なのですか?」

「いや、今の状態を見られるとそう疑われるのも仕方ないわよね。ルディほどではないけれど、あたしも自由奔放だったからね。ここでは天使様って呼ばれているけれど、見れば分かる通り、あたしはそもそも魔族よ?」

「確かに、頭の角と背中の羽は、魔族の特徴とは一致しますね」

 説明口調のフェリスだが、メルはさらっと流してしまう。とはいえ、まったく聞いていないというよりは、天使様として慕う以上はどうでもいい情報というだけだった。

「まぁ、あたしの生い立ちを長々しく語らせてもらうと、あたしは元々はただの白い猫だったのよ」

「へえ、そうなんですね」

 よっぽどメルの態度が気に入らなかったのか、フェリスは自分の生い立ちを語り始めた。しかし、当然ながら、メルはまったく興味がなさそうである。それでも構わずフェリスは自分語りを続ける。

「あたしの邪神化の第一歩は、とある魔族の眷属になった事ね。その影響で今のように角と羽が生えたのよ。真っ白なただの猫の状態で」

 フェリスが語る前で、メルは自分の実家で搾ったミルクをごくごくと飲んでいる。やっぱり興味がなさそうだ。

「本当に何百年も前の事だけど、昨日の事のように思い出すわね。あの頃は空を飛べたり魔法が使えるようになったりと、実に大はしゃぎだったわ」

「フェリス様にもそのような時期があられたのですね」

 メルの反応が少し変わる。

「でも、転機が来たのは、あたしがお使いでその時に主様の元を留守にしていた時だったわね」

「何があったのですか?」

 メルが食いついて尋ねてくる。その時のフェリスの顔は、かなり険しい表情だった。

「……主様が人間に討たれていたのよ。そんなに弱い方ではなかったけれど、それは惨たらしいものだったわ。……食事の時にする話じゃないけれど」

 一応食事中という事を気にするフェリス。根は本当に優しいフェリスである。

「それからのあたしはだいぶその時の負の感情と、世の中の邪気を吸収して荒れてたわね。今の性格からすると想像できないでしょうけど」

 フェリスが片肘をつきながら話していると、メルはミルクを飲みながらこくこくと頷いている。こんな話を聞きながらミルクが飲めるあたり、メルもなかなかな胆力の持ち主である。

「今のこの人型の姿を手に入れたのもそんな時だったわね。髪が赤くなっているのもそのせいよ」

「そうだったんですね。その頃は本当におつらかったでしょうね」

「うーん、つらかったというか、邪気を吸収したせいでだいぶ気が荒れてたのは間違いないからね。その頃の荒れ具合を思い出す今の方がつらいかも」

 メルの気遣いに、照れくさそうにそう言ってのけるフェリスである。

「ルディとか、他の邪神って呼ばれてる連中と会ったのもその時期だったわね。うーん、他のみんなはどうしてるのかしらね」

 一度大きく伸びをしたフェリスは、今度は両肘をテーブルについて物思いにふける。行儀の悪いフェリスだが、メルは気持ちを察してあえて突っ込まずに黙っている。

「とはいえ、ルディみたいに突撃してこられても困るんだけどね。どういうわけか、あたしがリーダー格みたいな扱いだったし、あたしの祠の場所はみんな知ってるもんね……」

 今度は盛大なため息のフェリス。

「来たら来たで、ルディ様と同じように扱えばいいだけでは?」

「まぁね。一応あたしが最強レベルだったし、それでいいかしらね」

 こう言って、フェリスは両手を組んで前から上にあげて大きく伸びをする。

「はあ、語ったらまたお腹空いちゃった。メル、何が食べたい? 聞いてくれたお礼にあたしが料理するわよ」

「フェリス様の手料理ですか?! 食べられる物でしたらフェリス様のお好きになさって下さい!」

 メルが立ち上がって大喜びである。

「なに、フェリスの手料理だと?! 俺にも食わせろっ!」

 どこからともなくルディまで現れる。ルディの耳と鼻の良さには、フェリスも呆れ返るのみである。メルが驚いて固まってるじゃないか。

 というわけで、フェリスがルディに一発げんこつを入れて、二度目の昼食をみんなで味わったのであった。

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