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第168話 邪神ちゃんは考える

 フェリスがレイドたちを連れて街の中へ入っていく。

「あっ、天使様、お帰りなさいませ」

「フェリス様、今日もお綺麗ですね」

 フェリスが街の中を歩けば、フェリスメルからやって来ている住民たちが声を掛けてきた。その様子に、レイドたちはものすごくびっくりしていた。おそらく魔族は悪という事を徹底して叩き込まれてきたのだろう。

「おや、フェリスじゃないの。コネッホは送り届けてきたのかしら?」

「ええ、無事にモスレの街まで送り届けてきたわよ。面白い街だったわ」

 ヘンネが街の整備の指揮を執っていた。徐々に移住者がやって来て、じわじわと住民となる人が出てきているようなのだ。

「そういえば、ヘンネ」

「何かしら」

「いや、この街の名前は決まったのかなと思ってね」

 フェリスの質問に、ヘンネはつい真面目な顔をして固まってしまっていた。

「……え?」

 フェリスも驚きを隠せない。

「まったく考えてなかったの?」

「ええ、そうですね。こういうのは最初に造った人物が決めるというのが筋でしょうから」

 フェリスが呆れて責めようとしたら、ヘンネから思わぬ反撃を食らってしまうフェリス。

「かっかっかっ、実にその通りよなぁ、フェリスよ。知恵比べではヘンネには勝てぬぞ?」

「ぐぬぬぬぬぬ……。ああ、決めればいいんでしょ、決めれば!」

 ドラコがからかうと、フェリスはキレ気味に叫んでいる。その様子を見ていたレイドたちは、どう反応していいのか困っているようだった。

「あっ、フェリス様、お帰りなさいませ!」

 とてとてとメルが走ってきた。そこそこの年齢の少女なのだが、まるで幼子のように走ってくる。可愛い。

「メル、あたしが留守の間、村はどうだったかしら」

「はい、特に問題はありませんでした。ルディ様もおとなしくクモたちの様子を見てられてましたよ」

 なぜか真っ先に名前を出されるルディ。メルの目から見ても、ルディはそれなりに心配なのだろう。インフェルノウルフという高位の魔物である割に、その知能レベルはそこらの子どもにだって負ける事があるのだから、こうなるのも無理はないか。

 それはそれとして、フェリスは街の名前を必死に考える。だが、その空気を読まずして、メルがフェリスに質問をする。

「あのフェリス様、そちらの方々はどちら様なのでしょうか」

 メルが聞いてきたのは、フェリスたちが連れてきた冒険者たちについてだった。見た事もない人物が自分の主人と一緒に居れば、それは当然ながら気になるものである。

「あー、あの人たちはあたしたちがモスレから戻ってくる最中に見つけた冒険者たちよ。大量のモウルに囲まれてて大変そうだったから助けたのよ」

「そうなんですね。さすがフェリス様です!」

 フェリスが事情を説明すると、メルがぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる。うん、君いくつだっけか?

「フェリス、それだったら私が後は引き受けますよ。あなたはさっさと街の名前を決めやがれ、下さい」

 どうやらこの街の名前はまだ決まっていなかったようだった。その事に関してなのか、ヘンネがちょっとキレそうな雰囲気になっているので、フェリスは恐怖を感じてさっさとレイドたちをヘンネに預けておいた。そのヘンネは見た目が鳥というだけあって、さすがにレイドたちはひと目見た時から驚いていた。だが、商業組合のお偉さんだと知ると、おとなしくなって後についていっていた。

 さて、フェリスの方は街の名前を考える事に戻っていた。

「ねえ、ドラコ。何かアイディアないかしら」

「知らん。第一お前さんが勝手に造ろうとした街じゃろうが。だったら最後まで責任を持つがよいぞ。わしは無茶振りはしても、それに巻き込まれるのは嫌じゃからな。我慢するにしても限界があるわい」

「うー、薄情者……」

 ドラコに助けを求めようとしたフェリスだったが、つっけんどんに返されてしまった。仕方がないので、フェリスはメルに助けを求めようとする。

「さあメルや。今日はわしが付き合ってやろう。フェリスは忙しいから、今はそっとしておくに限るぞ」

 だがしかし、ドラコが先回りしてメルを連れて行こうとする。

「ちょっと、メルはあたしの眷属よ!」

「なに、今日だけ借りるだけじゃぞ。人を頼りにせんと、自分だけでやってみるんじゃな。街の基礎を誰も相談なく造りおったんじゃから、当然じゃろう?」

 ものすごく冷ややかな目を向けるドラコに、フェリスは、

「ああ、分かったわよ。考えればいいんでしょ、考えれば!」

 半ば自棄になって叫び狂っている。

「一応、考えついたらわしとヘンネに声を掛けておくれ。変な名前だったら却下するからな。真剣に考えておくれ」

 ドラコはメルを連れて、街の散策へと出掛けていった。

 一人残されたフェリスは、どうしようか途方に暮れる。

「うーん、お腹が空いたわね。何かお腹に入れて考えましょうかね……」

 そんなわけで、フェリスはふらふらと新しい街の食堂へと歩いていったのだった。

 フェリスは無事に新しい街の名前を決める事ができるのだろうか。その足取りはなんとなく重いように見えた。

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