第15話 邪神ちゃんと嫉妬心
フェリスを追っかけてやって来たルディは、しばらく居ついている間にすっかり村の人気者となっていた。魔法の才能なんて物を燃やす程度しかないが、フェリスと同じ女性型の邪神とはいえ力は強く鼻も利く。そして、狼形態になれば大きくて全身もふもふなのだ。覚える事が苦手でがさつな事以外は、結構人気になりやすい要素が多かった。これにはフェリスも太刀打ちできなかった。
ルディは今ではフェリスと同じ家に住んでいる。元々はフェリスの御殿として建てられた家だが、メルに加えてルディが入ってきても部屋には余裕があった。三人で一部屋ずつ使ってもまだ部屋が余っている。半日もかからずに建てられた平屋のどこにそんな余裕があるというのだろうか。
「ルディがおとなしくしてくれるのなら、あたしは別にこの状況でもいいんだけど……」
フェリスは家でふて腐れ気味にしていた。
「どうされたんですか、フェリス様?」
当然ながらフェリスの巫女であるメルは、その様子が気になって仕方がなかった。フェリスの役に立つのが自分の役目だと思っているからである。
「いや、最近やたらとルディが人気なものだからね。気にしたくはないけどちょっと嫉妬というか何と言うか……」
メルに聞かれたフェリスは、ちょっともごもごとしながらも不機嫌な理由を語っていた。
「なるほど。確かにルディ様は明るくて、とても単じゅ……分かりやすい性格をされてますものね。基本的に皆さん、あまり複雑に考える事が苦手ですから、ルディ様が似たような方ですので歓迎しているだけだと思いますよ」
メルは「単純」と言いかけて言い直していた。この辺りはフェリスの影響だろうか、それなりに毒舌が混ざるようになっているメルである。
メルからの評価はそう高くはないものの、単純な戦闘力で圧倒的なルディは、村人たちからかなり頼りにされているようである。ただ、弱点はそのおつむの弱さだ。なにせ複雑に考えるのが苦手な上に、結構騙されやすい傾向にある。そういったところを補っていたのが、フェリスたち、ルディと親交のあった邪神たちである。単純な攻撃力の高さはフェリスたちも認めているのである。
「ルディは本当に頭だけは悪いからね。この村の中だけならそんなに心配はないでしょうけど、外部と関わるようになる時には気を付けた方がいいわよ」
「そのようですね。その点は気を付けるように村長様たちにも話しておきます」
フェリスとメルは、ルディの取り扱いについて確認をし合ったのだった。
「おー、ただいまだぞっ!」
村を適当に回っていたルディが、フェリスの家に戻ってきた。
「ルディ様、お帰りなさいませ」
メルが出迎える。
「おー、メル。相変わらず可愛いな。どうだ、俺の眷属ならないか?」
「お断り致します。私はすでにフェリス様の巫女ですので、他の方に仕える気はございません」
ルディの軽口を、笑顔で軽くいなすメル。まだ子どものように見えて、意外と強かに育っている。
「そうよ、ルディ。メルはあたしの眷属なんだから、あんたになんかあげないんだからねっ!」
「フェリス様……」
フェリスはメルを抱き寄せてルディに言い放つ。抱き寄せられたメルは嬉しそうに顔を赤くしている。
「おーおー、こんな幼子を言いくるめるなんて、相変わらずフェリスは手籠めにするのがうまいな」
「そういう言い方するんじゃないわよ! それだけあたしが魅力的って事よ、文句あるの?」
「はっ、文句はないさ。俺が惚れ込んだ女だからな、お前は。魅力無いという奴が居たらぶん殴ってやる!」
睨むようにしてフェリスが文句を言うと、ルディは笑顔のままでイケメン染みた事を喋っている。言っておくが、ルディも女だ。
「はあ、こういう調子のいいところが安心できる点であり、不安な点でもあるのよね……」
「心中お察し致します、フェリス様」
特大ため息のフェリスとそれを慰めるメル。二人の態度にルディは訳が分からないといった感じで戸惑っている。
「お、おい。何なんだよ、その態度は?!」
ルディが、フェリスとメルを交互に見るが、二人はそんな事は意に介さなかった。
「ルディ様がお戻りになられましたので、私は夕食の準備を始めますね」
「ええ、頼むわね、メル。あっ、そうだ。あたしはオニオン抜きでよろしくね」
「畏まりました、フェリス様」
ルディが慌てふためく様子にお構いなしに、メルは食事を作るために台所へと移動していく。フェリスもフェリスで、明日は村の農場やらを見て回る予定なので一度自室に引き上げていく。
「お、おい。俺は何をしたらいいんだ?」
「外を走り回ったんだから、水浴びでもしてらっしゃいよ。水を溜めるくらいならあたしがやってあげるから」
「おっ、それは悪いな」
そんなわけで、フェリスは得意の魔法でお風呂の大きな水桶にたくさんの水を張っておいた。ルディの人気に嫉妬しながらも、こういうところは世話焼きの癖がつい出てしまうフェリスなのである。
ちなみに夕食の席ではルディが自慢げに何かを語っていたようだが、やっぱり記憶力がさっぱりだし語彙力もないので、何を言っているのかまったく理解できないフェリスとメルなのであった。
ルディがやって来てすっかりにぎやかになった日常なのである。