第148話 邪神ちゃんは不機嫌
新しい街にやって来たコネッホは、早速20日間くらいの予定で仮店舗を設置する。冒険者の間でもコネッホの名はそこそこ知られているらしく、新しい街にやって来た事にものすごく驚いていた。
「おいおい、モスレの街のコネッホっていったら有名だぞ。少なくとも冒険者と商人なら知らない奴は居ない」
「まったくだぜ。コネッホが作ったっていうウサギ印のポーションに、いったい何度助けられたか分からねえぜ」
なるほど、冒険者たちから口々にそう出てくるあたり、確かに著名なようである。
一方で、アファカやヘンネも知っていたようなので、フェリスの引きこもり具合が分かるというものである。
「へっ? ヘンネも知ってたの?」
「当たり前じゃないですか。ペコラも知ってますよ。同じように商人として活動していたのですから、知らない方がおかしいんです」
ヘンネにこう言い切られてしまえば、フェリスはものすごくショックを受けていた。
「フェリスよ、そんなに落ち込むな。わしも知らんかったのだからな、かっかっかっ!」
フェリスを慰めようとして自慢げに話すドラコだが、その態度のせいでかえってフェリスのショックは大きくなっていた。慰めになってない。
「あたいの活動範囲はほぼモスレだけだからな。それこそ商人や冒険者のように活動範囲が広くないと分からんだろうね。そこまでショックを受けるのは意外だぞ、フェリス」
コネッホがフェリスを慰めてきた。だがしかし、フェリスの受けたショックは大きかったせいで、その言葉は届かなかったようである。
「まぁまぁ、コネッホさん。フェリスさんの事はメルさんに任せて、私たちは商談をしましょうか。ここに滞在されている間のポーションの在庫の事と今後の取引について」
「うんまあ、そういう事ならそうしておこう。フェリスが昔のままで安心したのだが、相変わらずって感じだな」
「うふふふ。それでしたら、昔のフェリスさんのお話を聞かせて頂きたいですね。他の皆さんからも大なり小なり聞いてはいますが……」
「だったらあまり新しい話はないと思うぞ。フェリスは良くも悪くも、あまり裏表のない魔族だからな。魔族だとそういうのは少ないからね」
コネッホとアファカが話をしながら、商業組合が入居する予定の建物へと移動していった。そんな中、フェリスはさっきからずっと両手両膝をついて落ち込んでいた。
「ふぇ、フェリス様……」
メルが心配して声を掛けてきたが、フェリスはしばらく立ち直れずにいたのだった。
「やれやれ……。メル、フェリスはしばらくそのままにしておこう。わしと一緒にできる事をしようではないか」
「で、でも……」
見かねたドラコがメルを連れてフェリスをしばらく放置しようとするが、メルは心配そうにフェリスを見ている。
「あやつなら大丈夫じゃ。しばらくすればけろっとして戻ってくる。そういう切り替えの早さもフェリスのいいところじゃからな」
ドラコはそう言って、無理やりメルを連れて街の中心部へと戻っていった。なにせできたばかりの街なのだから、やる事が多いのである。そんなわけで、ドラコはヘンネと話を始めていた。
「ふむぅ、そうなるとやっぱりフェリスの力が必要か。ハバリーは忙しそうにしておるからのう。街に水路を引くならば、フェリスの魔法でないと無理じゃぞ」
「そうなりますね。なにせ川まで近いとはいっても川幅がありますから。細かい水路を引いた方が何かと安全なんですよ」
ドラコとヘンネは、街の最終仕上げの話に入っていた。なるほど、水場というものは大事である。ヘンネは街の状態を見て、外周と中央部に全部で4本の水路を引くように考えているようである。
「なるほどのう。真ん中の2本は住宅地と農業地との境目というわけか。それじゃったらこの向きにも引かんか?」
「いえ、あまり溝を増やすのもよろしくはないかと。水路は十分な幅がありますから、柵が無ければ転落の危険性がありますからね」
「なるほどのう。じゃったら、メインはこの4本で、後は補助的に細い水路を整備するのがいいじゃろうな。詰まらぬとも限らんし、そういう遊びのような設備は要ると思うぞ」
ドラコがもの凄くまじめに話をしている。それを聞いたヘンネはそれもそうかと納得したような顔をしている。
「まあ、全部作るのはフェリスがやる事じゃ。わしらは議論だけじゃからな」
「まあそうですね」
悪い顔をしている二人に、
「なんであたしの仕事なのよっ!」
復活したフェリスが怒鳴りつけている。さっきまでの話を全部聞いていたらしく、最後の言葉でブチ切れたようだった。
「ここに街を造るような事を決めたのはフェリスです。ならば最後まで責任を持つものでしょう?」
「まったくじゃぞ。わしらはあくまで巻き込まれただけじゃ。わしらの知るフェリスなら、逃げんよなぁ?」
「うっ……」
まじまじと見てくるドラコとヘンネの視線に、フェリスは耐えきれなかったようだ。
「だあっ! やればいいんでしょ、やれば!!」
そんなわけで、フェリスは文句を言いながらも水路整備を始めたのだった。柵を付けたり蓋を付けたり、人が落ちないような工夫もちゃんと忘れない。
メルも含めて笑顔で見守られる中、フェリスは頬を膨らませながら水路を完成させたのだった。