第14話 邪神ちゃんとお仕置きタイム
氷瀑結界を食らって、ルディは完全に凍り付いている。
「フェリス様、これは一体?」
「氷瀑結界といってね、相手を氷の中に閉じ込める魔法なのよ。ちなみに氷瀑というのは、凍り付いた滝の事よ」
メルの質問にフェリスは丁寧答えていく。
「滝っていうのは川が断崖などの段差がある場所に差し掛かった時にできるもので、その滝って思ったより簡単には凍らないの。それをイメージしたこの結界は、思った以上の低温で相手を閉じ込めるのよ」
説明を続けるフェリスだが、それはどこか自慢げであった。
「まっ、インフェルノウルフはこの程度じゃ死なないわ。これって何度もお仕置きに使ってきた魔法だし、今回もちゃんと手加減してるから」
「なるほど、それでルディ様は慌ててらしたんですね」
フェリスの説明を最後まで聞いて、メルはルディの慌てように納得したようだった。
「出ーしーてーくーれー」
ルディのうめき声が聞こえてくる。だが、フェリスは今すぐ出すつもりはなかった。
「ダメよ。もうしばらく反省していなさい。あんたってばすぐ忘れるんだから、今回もいつものように1日そうしててもらうわ」
久しぶりのウザ絡みに加えてのわがままだったので、フェリスもたいそうご立腹である。『俺の』と連呼したのが一番まずかったのだ。
「ごめん、謝るから許しておくれよ! 俺たちの仲だろう? なっ、なっ!」
「まだ元気そうね。反省を促すためにもう一発打ち込んでおこうかしら」
「やめてくれっ! さすがにこれ以上は俺でもやばいからっ!」
フェリスが魔力を込め始めると、ルディは本気で慌てている。どうやら本当にこれ以上は危険らしい。
「ふぇ、フェリス様。さすがにこれ以上は可哀想です。ああも仰られていますし、このまま放置でいいと思います」
メルが泣きつくような顔でフェリスに懇願してくる。だが、よく聞いてみれば最後がなんとも鬼畜だった。
「まあ、メルがそう言うならやめておこうかしら」
フェリスは込めていた魔力を引っ込めた。
「それにしても、犬ころが暴れると大概こうなっちゃうのよね……」
フェリスは焼け焦げた周囲を見回して、呆れ顔をしながら吐き捨てる。
「これの後始末をやらされるあたしの身にもなってほしいわよ。あたしは自然破壊って嫌いだからね」
そう言って、フェリスは地面に手を当てて魔力を流す。すると、じわじわと地面に草が生え始めた。
「この魔法を使える事を考えると、牛の事とか小麦の事とかも確かにあたしのせいな気がするわ……。魔力を流した気はないんだけどね」
フェリスは両手を腰に当てながら、淡々と首を振りながら話している。
「まぁいっか。旬を狂わせるのはどうかと思うけど、その気になればいつでも味わえるのはいいかもね」
「それはいいかと思いますけれど、できる限り控えた方がよいかと思いますよ」
悩んでいたかと思うと、急にけろっとするフェリス。だが、メルはしっかりすぐに諫めていた。
「分かってるわよ、メル。ただ、昔の血気盛んな頃の状態だと問答無用で乱用していた気がするわ。本当にだいぶ丸くなったものね、あたしも」
頭の後ろで手を組みながら、フェリスはメルに近付いていく。そして、安全になったのでメルに掛けておいた防護魔法を解除した。
「それじゃ、村に戻りましょうか。黙って出てきてるから、今頃大騒ぎとも限らないし」
「そうですね。……ルディ様はどうしておきますか?」
フェリスの意見に同意しながらも、恐る恐るメルはルディを閉じ込めた氷瀑結界の方を見る。
「大丈夫大丈夫。今までと同じ加減で仕掛けてあるから、1日もすれば勝手に解除されるわよ。それでなくても、半日も経てばあいつの熱でどうにでもできるわけなんだけどね」
フェリスはルディの事は気にするなと、メルにしっかり説明している。
「でも……」
「あいつには自慢の鼻があるから、ちゃんと明日には戻って来るって。心配要らない要らない」
メルが心配そうにしているが、フェリスはまったく気にも留めない。
「放っておかなきゃお仕置きにならないでしょ。さっ、帰りましょ」
フェリスはそう言って、メルを抱きかかえて空を飛んでいく。
「おいっ、こらっ! 俺を置いていくな!」
空を飛んでいくフェリスを眺めながら、ルディは大声で騒いでいる。しかし、その声はもはやフェリスには届かなかった。氷瀑結界に閉じ込められているのだから仕方ないのだ。
「ちくしょーっ! なんでフェリスは俺のものにならないんだっ!」
また訳の分からない事を叫んでいるルディ。そういうところがおそらく嫌われているのだろうが、本人が気付くわけもなかった。
こうして、ルディは氷瀑結界に閉じ込められたまま、本当に広い平原に一人放置されてしまったのである。
翌日、緩くなった氷瀑結界を自分の炎で融かして脱出したルディは、早速フェリスの元へにおいをたどって突撃する。そして、飛び掛かろうとしたルディにフェリスの右ストレートが炸裂して、正座の上説教された。ここまでがいつものルディのお仕置きルーティンなのであった。
……まったく成長していない。