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第134話 邪神ちゃんときついお説教

 カツーンカツーンと、聖教会の神殿の中にヒールの音が響き渡る。

 夕暮れの薄暗い廊下の中を、ドラコはゆっくりと歩いていた。やがて、とある部屋の前で立ち止まった。

「ふむ、ここから胡散臭い空気が漂っておるのう。わしの鼻をごまかせると思うでないぞ」

 ドラコはノックもなく、突如として扉を開け払う。

「なっ、何者だっ!!」

 中に居たのは聖教会の司祭の一人だった。突如として扉が開けられた事で、ものすごく慌てている。

「いやぁ、すまんなぁ。ここがものすごくにおうもんじゃから、つい開け放ってしもうたんじゃ。かっかっかっ、失敬失敬」

 顔を引きつらせる司祭を気にも留めず、ドラコは満面の笑みで笑ってごまかしていた。

「に、におうだと……?!」

 司祭は顔を引きつらせている。普段から体臭にはとても気を遣っているがために、ドラコの言葉に苛つきを見せている。だが、司祭程度の睨みなど、ドラコにはまったく通じない。

「かっかっかっ、体臭など気にもならんわ。いいか、わしは数1000年以上を生きる古龍じゃぞ? おぬしらのような、たかが100年にも満たぬ時しか生きられぬ者と同じように考えてくれるなよ?」

 ドラコの瞳が怪しく光る。そのドラコの表情に、司祭はつい飲まれそうになってしまう。

 見た目はドレスを着た幼女ではあるものの、その正体は長きを生きる古龍なのである。矮小な司祭ごときがその威圧に耐えられるわけがないのである。

「おぬし、わしらがよほど邪魔と見えるのう……。そして、それを認める聖女にも歯向かう気とは、本当に命知らずのようじゃな。離れておったからと言って、わしが気付けぬとでも思うたか?」

 カツン、カツンとヒールの音が部屋の中に響き渡る。

 その近付いてくるドラコの姿に、司祭はただただ腰を抜かして後退るしかなかった。

「安心せい。何もおぬしの命を貰うつもりはない。そんな事をしては、今代の聖女、マイオリーといったかの。彼女が心を痛めてしまうからな。あやつは相手が誰であれ、苦しむのを見ていられぬ心優しき娘じゃ。おぬしが反乱を起こしたとて、おそらくおぬしを責める事はあるまいて」

 ドラコは司祭の目の前まで迫る。そして、しゃがみ込むとずいっとさらに司祭に顔を近付けた。ドラコの顔のパーツは、確かに幼女のそれなのだが、近くで見るとますますその中に秘められた歪な雰囲気というものが感じられる。

 真っ赤とも漆黒とも言えるその不思議な色の瞳は、本当に吸い込まれそうなくらいな雰囲気を持っているのだ。

「……わ、私にそんな事をして、き、貴様はただで済むとお、思っておるのか?!」

 司祭は後ろがない状態で、ドラコに対して必死に凄んでいる。この状態でもまだ強がれるとは、この司祭も大したものである。

「かーっかっかっかっ!」

 ドラコは両膝をついた状態で上体を上げて大笑いをしている。

「何がおかしい。おい、誰か居ないのかっ!」

「本当に愚かなものよなぁ。よくもそんなに強がっておれるのう。逆に感心できるレベルじゃわい」

 必死に叫ぶ司祭の姿を見て、ドラコは更に笑う。ドラコは笑い過ぎたようで、よく見ると瞳に涙が浮かんでいた。

「ヴェノム司祭、一体どうされたのですか!」

 教会の警備兵が駆け入ってくる。

「こ、こやつが私に襲い掛かってきたのだ。は、早くつまみ出せっ!」

 ヴェノムが騒ぎ立てる。だが、兵士はそれに従わない。それどころか、顔を見合わせて首を傾げている。一体どうしたというのだろうか。

「こやつって、一体どこに誰が居るのですか?」

「はあ?!」

 兵士は辺りをきょろきょろと見ている。これにはヴェノムは一体どうしたのだと、目を丸くしている。

「どういう事だ? 私の目の前に居るではないか!」

「誰も居ませんよ。まったく、何もないのに呼ぶのはやめて頂けますか?」

 ヴェノムが騒ぐものの、兵士たちには確かに目の前に居るドラコが認識できないようである。これは一体どういう事なのか、ヴェノムは激しく瞬きをしている。そして、呆けている間に兵士たちは「失礼します」と言って、部屋を出て行ってしまった。その様子に、ヴェノムは状況が理解できずにただ呆然とへたり込んでいた。

「かーっかっかっかっ! わしらみたいな古代種はのう、認識阻害の魔法を持っておるのだ。なにせ、その存在は秘匿にしておきたいものじゃからのう。今ここでわしを認識できるのはほとんど居らぬ。ああ、おぬしくらいの司祭クラスなら認識はできるぞ。これでもかなり緩くしてあるからな」

 ドラコはかなり上機嫌にぺらぺらと喋っている。

「まあ第一、おぬしも他人には知られたくなかろう? わしらはおろか、聖女にまで害をなそうと考えておる事をな」

「な……っ!」

 ドラコに指摘されて、ヴェノムは大口を開けて驚いてしまうのだった。

「かっかっかっ、なぜ知っておるというような顔をしておるのう。古龍を舐めてもらっては困るぞ?」

 ドラコは口に指を当てて、小悪魔のごとく笑う。

「覚えておくのじゃな。おぬしが一体何を敵に回そうとしておるのか、その骨の髄までな……」

 ドラコはそうとだけ言い残すと、すっと立ち上がって司祭の部屋を出ていった。部屋の中には、完全に打ちひしがれたヴェノムの姿だけが残されたのだった。

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