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第130話 邪神ちゃんと街を行く

 街に繰り出したフェリスたち。さすがにお昼が近いとあって、多くの人たちで賑わっている。

 マイオリーが居る事もあるが、生誕祭での印象もあってか、フェリスたちに対してもかなり寛容な街の人である。ちょくちょくと声を掛けられては露店を見物するといった事を繰り返していた。

「いやー、ちょっと心配したのよね。聖教会の土地で魔族な自分たちってどんな扱いを受けるのか。食堂の時もだけれど、好意的で嬉しいわね」

「フェリス様はお優しいですもの。当然です」

 フェリスが安堵したような表情をすると、メルは踏ん反りがえって得意げにしていた。本当にフェリスの眷属らしい事である。

 それにしても結構歩いているものの、聖教会の街はかなり広い。平民街をなかなか抜け出す事ができなかった。来た時も歩きはしたのだが、その時は話で盛り上がっていたせいもあってかよく分からなかったのだ。

「これだけ発展してるっていうのは、さすがという感じね。結構あちこちの産物が集まっている感じだし、交易の中心って感じがするわ」

 フェリスはあちこちをきょろきょろと見ている。

「かっかっかっ、フェリスよ、田舎者丸出しじゃぞ」

「うるさいわね、ドラコ。あたしは基本的に引きこもりだったんだから仕方ないでしょ」

 ドラコが大口を開けて笑うと、フェリスは不満げにドラコを見た。ゆらりゆらりと尻尾が素早く揺れる。

「ふっ、引きこもり自慢とはなぁ……。年月的に見ればわしの方が圧倒的ぞ。まだまだ青いのう、フェリス」

「う、うるさーいっ!」

 売り言葉に買い言葉というか、フェリスは本気でドラコに対して怒っている。

「あ、あの……、フェリス様」

 メルがフェリスの裾をくいくいと引っ張ってくるので、

「何よ、メル」

 フェリスは怒った表情でメルを見る。それに対してメルは一瞬跳ね上がるように驚いたものの、

「フェリス様……、周りを、ご覧になって下さい」

 なんとかフェリスに言うだけ言ってのけた。

 メルの言葉にフェリスが周りを見ると、マイオリーを含めてくすくすと笑っている様子が目に入った。表情からすれば微笑ましくて笑っている感じなのだが、フェリスはちょっと恥ずかしくなってしまった。

「ふふっ、フェリス様ってば邪神を自称される割には、反応とかは私たちと変わらないので安心しますね」

「そりゃ、魔族っていっても身体的な能力とか魔力の保有量とかが高いだけで、人型だと人間とあまり変わりないわよ」

 マイオリーの言葉に、頬をぽりぽりと掻きながら細々と話すフェリス。地味に可愛い仕草である。フェリスが愛されるのはこういう点なのだろうと、マイオリーは思った。

 そんなこんなで街を巡っていくフェリスたち。本当に街の人たちはフェリスたちに気さくに話し掛けてくるし、油断すると毛並みを確かめてくる。

「にゃああっ、そんなに気安く触らないでよぉっ!」

 フェリスが珍しく猫みたいな声を出している。しかしこの反応、フェリスはおさわり禁止っぽいようである。人には結構触るくせに。だが、その赤面してのその反応に、かえってみんなの間に笑いが起きているようだった。

「ううう……」

 フェリスは自分の頭を撫でながら、頬を膨らませて口を尖らせていた。

 さて、その後のフェリスは服飾店に足を運ぶ。都会のファッションのチェックである。せっかく聖教会の街に来たのだ、珍しいものを見ておきたいのである。

「いらっしゃいませ。何をお求めですか」

 店員が話し掛けてくるが、すぐにその動きが固まる。聖教会のシンボルである聖女のマイオリーが客に紛れていたからだ。そんな簡単に会える人物ではないのに、自分の店にやって来たのだから、そりゃ緊張と驚きで固まってしまうというものだ。

「うふふ、私の事はお気になさらずに。ささ、フェリス様もドラコ様もゆっくりご見学下さいませ」

 マイオリーが笑顔で立っている。フェリスとドラコはとりあえず言葉に甘えて店内を見始めた。当然ながら、フェリスの隣にはメルが居る。その途中、ある一角で足が止まる。

「うーん、この生地はスパイダーヤーンね。そっか、ここまで流通しちゃっているのかぁ」

 フェリスメルで生産しているスパイダーヤーンを使った服が売られていたのだ。

「やや、お目が高いですね。こちらの服装は最近流通し始めた糸を使った生地となります。見た目も光沢が目立ち、肌触りが良いと上流階級を中心によく売れているのですよ」

 近付いてきた店員が手もみをしながら話し掛けてくる。カモを見つけたような態度である。

「うん、これだけのものができているなら、頑張って糸にしたかいがあるってものね」

「は? 糸?」

 フェリスが腕を組みながら頷いていると、店員が首を傾げている。

「あたしたちは、スパイダーヤーンの生産地であるフェリスメルから来たのよ。ちなみにあたしがフェリスで、こっちが眷属のメルよ。村の名前はあたしたち二人からつけられたのよ」

「ななな、なんとっ! これはこれは失礼致しました」

 フェリスがドヤ顔を決めながら話すと、店員は深々と頭を下げてきた。

「うん、いい服に仕立ててもらえて、あたしとしても鼻が高いわ」

 フェリスのにっこりとした笑顔に、店員は心を射抜かれてしまったのだった。

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