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第13話 邪神ちゃんと真剣勝負

「大きなワンちゃん、またねーっ!」

「おー、またなー。それと俺は狼だから、間違えるなよー?」

 もふもふを堪能した子どもたちが帰っていく。全身をもふられていたルディは機嫌が悪くなるかと思いきや、逆に機嫌は最高潮だった。

「怒られるかと思いましたけれど、喜んでいらっしゃいますね」

「じゃれ合いが好きだからね、ルディは。邪神の一人には違いないんだけど、スキンシップは大好物だからね」

 メルの反応に、フェリスはよく絡まれた一人としてルディの事を話している。

「そうなんですね。フェリス様も邪神とは仰ってますが、ルディ様を見ても邪神と呼ばれるほど悪い方だったのか疑いたくなってしまいます」

 メルのストレートな物言いに、フェリスは頭を掻く。

「いやぁ、そう言われると今の時代ともなると怪しいわね。ルディもああいう感じだし、人間と魔族との戦いが終結以降は、あたしたちみたいな邪神が増えたのよね。混沌とした空気が無くなって邪神の力の源がどんどんと薄まっちゃったから」

「そうなんですね」

 フェリスの言い分を軽く流してしまうメル。子どもながらになかなか大胆である。

「ルディはインフェルノウルフっていう、そこらを火の海にするような狂暴な魔物だったのよ。ある国で崇められて邪神になったタイプなの。まあ、その国は焼かれて滅んだけど」

「という事は、ルディ様はあまり怒らせない方がよろしいと?」

「まあそうね。単純な性格だから、おいしいご飯を与えてればおとなしいと思うわ」

 フェリスがメルに説明しながら、顔がどんどん適当になっていく。ルディはフェリスに結構ウザ絡みしていたので、あまり話をしたくないようなのだ。

「そうなんですね。あと、ルディ様はフェリス様に懐いておられるようにお見受けしますが?」

 メルの言葉振りに、フェリスの顔が少し歪む。

「まあね。初めて会った時に戦いを挑まれて返り討ちにしたからね。強い相手に従順なのは犬ころによくある話よ」

 フェリスの言葉に、ルディがぴくりと耳を揺らす。

「おうおう、フェリスったら、俺の事をずいぶん言ってくれちゃうなぁ?」

 ルディが怒っているようにも見える。いろいろ黒歴史的なものをほじくり返されて頭に来たようである。

「何よ。本当の事ばかりでしょうが」

 そしたらフェリスもまたけんか腰に言葉を返す。売り言葉に買い言葉。こうなってくると両者はヒートアップしてきてしまった。メルが挟まれてあたふたと慌てている。

「おー、ならばここで勝負するか?」

「馬鹿言いなさいよ。村の中で暴れたら他の人に迷惑でしょうが。あたしの居た祠との間に広い平原があるから、そこで勝負よ」

 フェリスとルディが睨み合っている。これは誰にも止められない。

「よしいいだろう。負けた方は勝った方の奴隷だ。それでいいか?」

「いいわよ。さっさとやるわよ」

 ふいっと顔を背けあう二人。メルはただただ困惑してその様子を見守っていた。


 村の近くの平原。ここにはどういうわけかメルも連れてこられてしまった。

「あのー、私が居る理由って?」

「見届け人。大丈夫よ、あたしの防護が掛かってるから、怪我すらしないわ」

「わ、分かりました」

 フェリスから手短に説明されたメルは、なぜかそれだけで納得してしまった。

「さて、とっとと始めるか!」

 メルの安全だけを確認したルディが、先手必勝とばかりにフェリスに襲い掛かる。ルディの巨体がフェリスに迫りくる。

「相変わらず単純ね」

 だが、そんな単純な直進をフェリスが食らうわけもなく、あっさりと躱してしまった。

「でかいのは態度と図体だけかしら。本当に情けない。真の邪神の力ってものを見せてあげようじゃないの!」

 フェリスの体からどす黒い魔力が吹き出し始める。すると、普段の可愛らしい姿が、黒い魔力をまとった少し大人っぽい体格へと変わっていった。ただし、服は変わらなかった。

「おお、その禍々しい魔力。さすがは俺が惚れ込んだフェリスだ!」

「誰が、あんたのよっ!!」

 ルディが歓喜の声を上げていると、フェリスはいつものパターンにマヂギレのようである。

「伏せっ!」

 スパーンとルディの頭を一発殴る。すると、ルディの頭が地面を抉ってめり込んだ。

「ぶべらっ!」

 なんともどっかの雑魚キャラのような声が響き渡る。だが、頑丈が取り柄のルディはすぐさま頭を上げてフェリスを見る。

「ふはははっ、そうこなくてはなっ!」

 強烈な一撃を食らいながらも、ルディは調子が上がってきたようである。それが証拠に、ルディの体毛がちりっちりっと揺らめき始めた。

「うわあっ、体が……燃えています!」

 その姿にメルが叫んだ。そう、ルディの全身が激しく燃え上がっていたのである。その光景から察するに、おそらくフェリスの防護が無ければ、メルはすでに焼けていただろう。

「やれやれ、どこまでいっても単純だな。少しは成長したかと思ったけど、犬ころは犬ころなのね!」

 フェリスはルディが燃え盛っているのもお構いなしに、どんどんと魔法を使っていく。さすがにあの状態に肉弾戦を挑むような事はしなかった。

 だが、ルディも単純にやられるようなへまはしない。昔よりは成長していると言わんばかりにフェリスの攻撃を避けていく。そして、たまに炎を吐くが、これも簡単にフェリスに防がれてしまった。

「ふははは、嬉しいぞ! やはり、フェリスが一番だな!」

「まったく、どうしてそこまであたしに構うのか。理解できないわねっ!」

 喜びに打ち震えるルディに対し、フェリスは遠慮なく魔法をぶつけていく。それを躱していくルディだが、

「ん?」

 どうやら何かに気が付いたようである。

 が、その時にはすでに勝負は決していた。

「なあっ?! ちょっと待て、こんなのいつの間に!」

「だからあんたは頭が悪いって言うのよ。誘導されてる事にも気付かないなんてね」

 フェリスはとにかく呆れていた。ルディの頭の悪さに心底付き合っていられない。

「すまん、謝るからそれはやめて!」

「もう遅い! 凍れっ! 氷瀑結界!」

「ぎゃあああっ!!」

 燃え盛るルディが、一瞬で氷に閉じ込められてしまった。その光景にメルはただただ美しいと思うのだった。

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