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第12話 邪神ちゃんともふもふタイム

 全身が赤い毛並みのルディはとにかく目立った。狼の状態だとかなり大きいので、獣人の状態で村の中を歩く。ルディは褐色の肌に赤い髪であり、白い毛並みに赤い髪のフェリスとは少々対照的である。また同じ髪色であってもフェリスが明るめなのに対してルディは少々黒ずんだというか暗めの色である。まあ、どっちももふもふ成分を持っているので、村の子どもたちが興味津々にフェリスたちを見ている。

「私も子どもなので分かりますが、やっぱりみんな触りたくてうずうずしてますね」

「あー、やっぱりあの目はそうなのね。うーん、仕方ないなぁ」

 メルの言葉に、フェリスがちょっと悩んだようだが、

「おーい、子どもたち。少しもふるかい?」

 建物の陰から覗き込む子どもたちを呼び寄せた。すると、子どもたちは目を輝かせて、建物の陰から出てきてフェリスたちに駆け寄った。よっぽど触りたかったようだ。

「わーい!」

「うわあー、ふかふかだーっ!」

「やわらかーい」

 フェリスに触れる子どもたちが笑顔で満足している。それを見ているメルがドヤ顔を決めている。

「フェリス様は天使様ですからね。それはもう極上の肌触りなんですよ」

「いや、あたしは邪神だからね? 毎日の手入れを怠ってないから、肌触りがいいのは当たり前なんだから」

 メルの言葉にフェリスはとりあえずツッコミを入れておく。

 それにしても、フェリスは子どもに大人気である。

「それにしても植物や牛の事を考えると、こんなにもフェリス様にべたべた触っていて大丈夫なんでしょうか」

「それは多分大丈夫よ。メルが平気でしょ?」

「あっ、そうでしたね。これは失礼しました」

 メルが懸念を話すと、フェリスはすぐさま否定した。思い当たる節があるメルはすぐさま謝った。

「なんだ、あの果物はお前の恩恵なのか、フェリス」

 やけに静かだったルディがようやく喋った。初めての村で警戒していたらしい。

「そうみたいよ。ちょっと撫でたくらいなのにあんなになっちゃってね。おかげで人間以外は触るのを躊躇しちゃうわ」

 フェリスは苦笑いしながらそう答えた。

「いやぁ、お前が用意した飯がうまいとは思ってたが、そういう能力があったんだな。さすがは俺のフェリス!」

「誰があんたのよ!」

 ルディが調子に乗って言うものだから、もふっていた子どもたちを離れさせてから、フェリスの右ストレートがルディの顔面に炸裂する。

「いってぇなぁ!」

「いい加減に自分の所有物みたいにあたしの事を言うのをやめなさい!」

「なんでだよ!」

「当たり前でしょ!」

 ぎゃんぎゃんきゃんきゃんと睨み合う二人。それを見ていたメルたちが呆然としている。

 しかし、長くなる睨み合いに、メルがついおかしくなって笑い始めた。

「ちょっとメル、なんで笑ってるのよ」

 フェリスの機嫌が、ルディとのけんかを引きずっていてか結構悪い。

「いや、お二方はとても仲がいいなと思いまして、羨ましくなっちゃいました」

「はあ? なんでこいつと仲がいいって言うのよ」

 メルの言い分に文句を言うフェリス。しかし、その後ろではルディが満足げにうんうんと頷いていた。

「いえ、そんな攻撃一発で済ませている辺りでフェリス様はお優しいですし、尻尾に感情が出てしまってますから……」

「……!」

 メルに指摘されて、フェリスは尻尾をふいっと抱え込む。どうやら尻尾に感情が出てしまっていたようである。

「まったく、この眷属はそういうのには詳しいんだから……」

 そういうフェリスの顔は照れたように赤かった。

「はっはっはっ、いい眷属を持ったじゃねえか、フェリス。羨ましいなぁっ!」

 その様子を見ていたルディが大口を開けて笑っている。それに対してフェリスが反応に困っていると、さっき離した子どもたちがまだこっちをじっと見ている事に気が付いた。

「あら、みんなどうしたのかしら?」

 フェリスは近付いて話し掛ける。すると、

「もっともふもふしたい」

「あっちのおねーちゃんももふもふしたい」

 と言っている。どうやら、ルディのふさふさの尻尾にも興味を示しているようなのだ。

「おっ、俺の毛並みを堪能したいのか? ちょっと待ってろ」

 子どもたちがぞろぞろと近寄って来るので、ルディは機嫌がよさそうに狼の姿に戻ろうとしている。

「ルディ、ちょっと待ちなさい。ここは狭いからやめなさい! あんたの図体のでかさを考えてるの?」

 慌てて止めようとするフェリスだったが、残念ながら時すでに遅しだった。家の密集する狭い場所でルディはあっという間に狼の姿になってしまった。しかも、すぐさま座り込もうとしている。周りの家が何軒か潰されそうである。

「やーめーろー、馬鹿犬ころ!」

 フェリスは必死にルディを止める。この犬ころ発言が功を奏したのか、ルディが座り込むのをやめた。

「誰が犬ころだ! 俺は誇り高き狼、インフェルノウルフだぞ!」

「だったらもう少し頭を使いなさい! こんな狭い所ででかい図体になったら、周りがどうなるかくらい分かるでしょ!」

 フェリスに怒られて、ルディは周りを見る。確かに動くには狭い。それが分かったルディは仕方なく獣人スタイルに戻った。

「あたしの家の前に行くわよ。あそこなら十分な広さがあるわ」

 フェリスがそう言うと、村の子どもたちも引き連れてフェリスの家の前までやって来る。そこで改めてルディが狼形態になると、子どもたちが一斉に駆け寄ろうとする。

「ちょっと待った」

 それをフェリスが制止すると、子どもたちはぴたりと走るのをやめた。

「ルディ」

「なんだ?」

「触っても燃えないわよね?」

「ああ、大丈夫だ。触らせようとするのにそんなバカはしないぞ」

「分かったわ。まっ、万一があってもあたしが消火できるし回復もできるから、そこまで大ごとにはならないかしらね」

 ルディに確認を取ったところで、フェリスは子どもたちの方を向く。

「さあ、思いっきり堪能して大丈夫よ」

 フェリスがこう言うと、子どもたちは一斉にルディに飛び掛かった。そして、心ゆくまで大きな狼の毛並みを堪能するのだった。

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