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第1話 邪神ちゃん登場

 人間と魔族との間には、長きにわたり戦いが繰り広げられてきた。邪神と呼ばれる存在もその戦いの裏で暗躍し、事態は混乱を極めていた。

 だが、魔族が優性という状況の中で、急展開が訪れる。神の加護を授かったとされる化け物のような人間が現れたのだ。のちに選ばれし勇者と呼ばれる事になるその人間の活躍により、魔族のトップである魔王が討たれて戦いは終結したのだった。


 それから数100年……。

 魔王が討たれた事で新たな魔王は誕生したものの、世の中はいたって平和だった。人間に比べれば魔族は強いが、下手に戦いを起こそうものなら先の戦いのような事が起こらないとも限らない。こうして人間と魔族は微妙な均衡の中で平和に暮らすようになっていた。

 こうして世の中がほのぼのとしてくると、邪神と呼ばれた存在も段々と毒気が抜かれていくものである。

「ふあ~~……、今日もいい天気ねえ」

 大あくびをしてから青空を見上げる、人間の骨格をした、黒い蝙蝠のような羽を持つもふもふした猫型の女性が居た。

「戦争が起きなくなったら、あたしを拝みに来るのも居なくなっちゃったなぁ。本当に暇だわ」

 女性は伸びをしながらもう一度あくびをする。本当に何もないし、誰も来ない。もうどのくらい他人を見ていないのかも分からなくなっていた。

「うーん、誰も来ないのなら、こっちから出向いてみる?」

 誰からの返事もないのは分かっているのに、女性はふと問い掛けてみている。耳とひげをぴょこんとさせた女性は、思い立ったように住処である祠から歩いて出ていった。

 祠からそう遠くもない場所に、人間たちの住む村があった。牧畜と農業を営む、さほど大きくない村のようである。

 女性は人間とは明らかに違う容姿をしているが、そんな事は気にしないで村へ向かって走っていった。

「おお~、人間どもが居る居る」

 久しぶりに見た人間たちに、目を輝かせて感動している。そして、女性はぴょこぴょこと耳と尻尾を揺らしながら村へと近付いた。

「怪しい奴め、止まれ!」

 当然ながら、人間とは明らかに違う容姿をした女性は、入口で止められてしまう。だが、女性はまったく動じていない。

「いやいや、お勤めご苦労さん」

 女性はへらへらと笑っている。

「お前は何者だ。耳と尻尾、羽に角まで生やしおって」

「まあね~。向こうにある祠で邪神として祀られていたから、それっぽい姿になっちゃっただけよ。あたし自身は戦いとかあまり興味ないけどね」

 腰に手を当てて大口で笑う女性に、村の入口に立つ男は戸惑っている。

「邪神と言ってはいるが、あたし自身は長生きしているだけのただの気ままな猫の魔族さ。名前はフェリスっていうのよ」

 フェリスがあまりに無邪気過ぎて、門番をしている男は反応に困っている。

「心配する事は無いよ。あたしは暇つぶしさえできれば、事の良し悪しは問わないよ。手伝える事があったら言ってちょうだい」

 フェリスは本当に屈託のない笑顔で笑う。見た目はそこそこの少女という感じだが、言葉の端々に何か恐ろしさを感じる門番の男である。

「まあ、せっかくのご近所さんだしね。見させてもらっても構わないかしら?」

「ああ、悪い事をしないなら、魔族だろうと別に構わんぞ」

「そうかいそうかい、それはありがたいわね」

 フェリスは門番にお礼を言うと、村の中へと歩み入っていった。

 村の中は実にほのぼのとした感じだ。だが、村人がフェリスに向けてくる視線というものは、なかなかに複雑なものだった。

 フェリスの服装はホルターネックのひざ丈のワンピースに編み上げのサンダルという、なんともシンプルなものである。

 それよりも目立つのは黒い蝙蝠のような羽を背中に持ちながら、全体的に白い毛並みで燃えるような真っ赤な髪の毛を持っていて、さらには金色の瞳という容姿だった。神聖なものなのか邪悪なものなのか、本当に見ただけじゃ分からない、なんとも不思議な姿なのである。さらにはちょうど年頃の娘ほどの背丈を持ちながら、見た目は猫というのが奇抜過ぎたのである。

 村人たちが牽制する中、とある村人の女性が声を掛けてきた。

「おやおや、村じゃ見ない顔だね。どこから来たんだい?」

 どっしりとしたおばさんだった。他の村人が近寄らない中、フェリスに話し掛けてくるとはなかなかな肝っ玉である。

「あたしを怖がらないのかしら? 門番の人は仕事だから仕方ないにしても、この姿のあたしに話し掛けてくるとは、なかなかに面白い人間だわ」

 フェリスは質問に答えていないどころか、おばさんの行動を笑っている。さすがは邪神。人間とは思考回路が違い過ぎる。

「まあ、いいよ。答えてあげるわ。あたしは村のあっちの方にある祠から来たのよ。丘を越えた先のさらに小高い丘と言えば分かるかな?」

「へえ、確か邪神が祀られているとか言われてる祠だね。小さい頃にみんなに内緒で行った事があるよ。もしかしてその時に会った女の子かい?」

 予想外の言葉が聞こえてきた。目の前のおばさんはフェリスの住む祠を訪れた事があるらしい。フェリスにはとんと覚えのない事である。

 フェリスが首を傾げて必死に思い出そうとするが、いかんせん普段からおぼろげに過ごしていただけに、とんと思い出せない。

 そんな時だった。

「魔物が、魔物がやって来たぞっ!!」

 門番が叫んでいる。どうやら魔物がやって来たようだ。門番他、武器を持った村人が囲いの前で待ち構える。フェリスは空に飛び上がり、じっと村の囲いの外見る。

「ほぉ……あれはボアかな? 少し群れておるかな」

 フェリスは少し考える。

「……あれくらいなら準備運動にもならないけど、まあいいか」

 フェリスはくるりと回って、村人たちの前に出る。

「お前はさっきの魔族の嬢ちゃん!」

「ほいほい。久しぶりに会った人間たちだし、守ってあげるわよ」

 門番たちが何やら騒ぐが、フェリスは気にしない。

「土よっ!」

 フェリスが地面に手を当てて魔法を発動すると、ボアの下からたくさんの岩の棘が出てボアたちを串刺しにしていった。その光景に、門番たちは唖然と立ち尽くしていた。

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