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流星(3月9日 竹内 あおい) ④
夕方──、
「お腹へった!」
「ちょっとまって、トイレいってくる」
誰もない終点のホーム。壁ぎわの時計をみる。
6時ごろか。
もう、ほとんど日は暮れかけている。
改札の向こうに、大きな資材置場。そのむこうには、何もない。遠くに川、地平線の近くに、山かげがうっすらと。
山のあいだに、大きな夕陽。
「あ、」
トイレから戻ってきた少女が、ハンカチで手をふきながら声をあげる。
「一番星!」
「本当だ、」
ふたりで、首をまげて、消えかかったあかね色の空を見上げる。
「あれ、流れ星じゃない?」
「え、まじで」
「ほら、あそこ!」
「願い事、いわないと!」
「えーっと」
すっと深呼吸。している間に、最初のひとつは消えて、
また、ひとつ。
「……学校がなくなりますように、学校がなくなりますように、学校がなくなりますように!」
「せっかくの願い事、それ?」
「それしか、ないもん」
「ふーん」
ふたりは、くすくすと大きな声をあげて笑った。




