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へんな子たち  作者: 楠羽毛
鏡写し
9/103

鏡写し(5月26日 塚本舞) ④

「……ねえ!」

 図書室からでて、渡り廊下へゆく途中。トイレの前。

 ひょいと、すぐ右肩から、高い声で。

 ちょうどトイレから出たばかりか、片足を廊下に出して、ちょっと首をのばしたような姿勢で。

 朝、追い抜いていった、赤い髪留かみどめの少女だった。

「なあに」

 どうしても、この子の名前が思い出せない。たしかに、知っているのに。

「ちょっと来てくれる?」

「なに!」

 おもわず、声を高くしてしまう。いらいらしている。

「いいからさァ」

「なにって!」

 右ひじを、なれなれしい手つきでくい、と引かれる。左手で、軽くふりはらうようにするが、強引に引っ張られる。

「ちょっと!」

「ねえ、……鏡、見た?」

「え?」

「かがみ!」

「何って……、」

 誰だっただろうか。

 どうしても、思い出せない。気にかかることが、多すぎる。

「ちょっと、待って」

 プリントを、くしゃりと雑に四つ折りにして、スカートのポケットに突っ込む。ペンケースは握りこんだまま、ぐいぐい肘を引かれて、トイレの中へ。

 洗面所の前、たしかに、ここに鏡が。

 なんでもない、ふつうの。ふたりの顔が、ただ写っているだけ──

「よーく、見てよ。なにか、おかしくない?」

「なにが、」

 言われて、ちょっと顔を近づけてみる。

 自分の顔だ。

 先生に怒られないぎりぎりの色に染めた茶髪ちゃぱつ、目の色はちょっと青みがかって。鼻はちょっと高めで、頬がこけている。

 もっと、かわいらしい顔であったらいいのに。例えば、ひなたのような。


 ──ふと、鏡の中の眉が動いた気がした。

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