人形の糸(2月21日 岡野 ひなた) ①
いつからか。
白い糸が、ぴんと、関節ごとに、きれいに張って。
天に伸びている。
*
「あ、」
と、高い声が出てしまう。
通学路の、いつもの横断歩道。長い信号待ちが終わって、ゆっくりと足を踏み出す。となりで一歩先にいるのは、塚本舞。鼻の高い、茶髪の同級生。
「どうしたの?」
舞は、ふしんげな顔をして、歩きながらこちらを見た。
じんわり青みがかった目を、きゅっと細めて。
「え、……」
ひなたは、ちょっと片腕をあげるようなしぐさをして、小さく笑ってみせた。
「なんでもないよ。」
いいながら、肩をひねる。ちょっと、関節の調子がおかしいだけだ。
特に、肘と、左肩。ゆうべからだ。ちょっと歩調をゆるめて、空を見上げる。それから、早足でまた舞に追いつく。
「なんか、顔色悪いよ。だいじょうぶ?」
舞は、立ち止まって、ひなたの頬に顔を近づけてくる。ちょっときつめの眉を、ぎゅっと寄せて。
「うん。……マイちゃんこそ。」
「なにが?」
いいながら、舞は、もとのように歩きだしている。ひなたの一歩前を、すたすたと、早足で。
「ううん。……なんでもない、」
ひなたは、頷いて、また歩きだした。ふたりが渡りおえたところで、ちょうど、信号が赤になった。




