鏡写し(5月26日 塚本舞) ③
「これ、ちょうだい」
昼休み。
わざわざ、図書室に呼び出して。クラスメイトの真鍋孝則。ちょっと小太りで、にきびのある顔。いつも目を伏せていて、強く出られると断れないような。
まじめなだけが、とりえの。
「え、」
几帳面なブロック体でさいごの行まで埋めた、両面印刷のプリント2枚。ひらりと、左手でつまみあげる。
「うそだろ、写すんじゃ」
「まるっと同じだったらすぐわかっちゃうでしょ! 同じクラスなんだし」
「そこは、てきとうに変えてさ」
「そんな時間ないもん!」
「だからってさ……、」
「いいじゃん」
机の上に出しておいた消しゴムで、すぐに真鍋の名前を消す。ふたりの字は似ている。日本語ならともかく、アルファベットなら、たぶん、バレない。
「じゃ、これ。あげるから」
白紙の、自分のプリントをおしつける。さっさと、消しゴムとシャープペンシルをペンケースにしまって、立ち上がる。
昼休みはあと15分。ま、なんとかするだろう。
「もう!」
怒ったような声を出すが、──舞が視線をむけると、ちょっと顔を伏せて、黙ってしまう。
「どうもね、」
と、言いおいて。手をふる。
「あの、」
ふと、孝則が顔をあげて。
「きみ、……左きき、だっけ?」
はぁ、とおもわず声をあげて、左手をみる。
それから、右手を。
「……気持ちわる」
ぼそりと、そう呟いて、舞は図書室をでた。