書き手と読み手(12月8日 中嶋 百花) ⑤
紙のなかから、毛糸玉のようにからみあった活字が、ぼろぼろとこぼれ落ちていく。
空中で、ブレーキがかかったようにふんわりと速度を落として、こぼれた活字がからみあって、のびて、くるくるねじれて立体化していく。
人間のかたちに。
空中でそれが絡みあって、人間のかたちにかわっていく。
制服をきた子供たちに。
岡くるみ。
岡野ひなた。
塚本舞。
それから、その前に吸い込んでいたらしい、ふたりの少年と少女。
5人は、意識を失ったまま、ベッドのうえに折り重なってくずおれる。いちばん下になったくるみは苦しそうに息をして、それでも目は開かない。
山のように重なった被害者たちを眺めて、少女は眉をしかめた。
「……なーんか、安直!」
さて、後はもう放っておいて──、
からり。
ドアがあいた。どたどたと入ってきたのは保健の先生ではなくて、長い髪を後ろで縛った、姿勢のよい少女。吉岡愛梨。めずらしく、授業中ではないのに、赤ぶちのめがねをかけている。
「それ、私の本!」
「そうなの? 返す」
心底あせった様子で、ぐいと手を出してくる愛梨に、赤い髪留めの少女は、そっけなく赤い本をさし出した。
愛梨は、ひったくるように受け取って、大急ぎで本をめくる。
全て白紙だ。
ほっと息をつく。肩の震えが止まった。
それにしても、とベッドの上をみる。ずいぶん積み上がったものだ。
「……これ、どうするの?」
眉をしかめて。
「さあ? あたし、しいらない」
ふたりは、顔を見合わせて、渋い顔で、うわずった声をあげて笑った。
後ろでは、百花が、しずかな寝息をたてて目を閉じていた。
(書き手と読み手 了)




