64/103
書き手と読み手(12月8日 中嶋 百花) ③
「ねえ!」
ひょいと、人垣をかきわけるようにして、だれかが出てきた。
小柄な少女だった。
吊り眼ぎみの目を細めて、右手をひょいとあげて、かるく曲げた人差し指を、こちらに向けている。ふんわり跳ねた髪のうえに、赤い髪留めをひとつ付けて。
百花は、ちらりとそちらを見て、名前を呼ぼうとした。
「ねえ、それ。」
にやにやと笑いながら立つ、きれいな爪をした少女の名前を。
できなかった。
名前が、わからない。たしかに、知っているのに。
百花は、硬直して、たらたらと額から汗を流した。靴の中が、じんわりと湿って、どくんと心臓の音が全身にひびく。
少女は、すっと本に手をかけて、含み笑いをもらしながら、
「これ、あなたの?」
と、訊いた。
百花は、唇をふるわせながら、無言で首をふった。
「どこで、みつけたの?」
「……図書準備室で、……」
「ふうん。返しとくね」
すっと、少女が百花の手から本をとりあげると、
百花は、すとんと膝からくずおれて、目をあけたまま動かなくなってしまった。




