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眠り姫(9月30日 吉岡 愛梨) ②
なにか、が見えた。いや、見えた、らしい。
*
少女は、ぱたんとドアを閉じる。「今の、」と、小さくつぶやく。
「あれ、……」
愛梨の目を、じっと見つめて。
水ならあっちでしょう、といいかけて、愛梨はまた口をとじた。
とにかく、図書室への扉をあけてしまったのだ。たまたまテーブルに近かったからか、なんなのか、もうわからない。
そして、……どうしてか、あれが、見えてしまったのだ。
「吉岡さん、さっきの、……知ってるの?」
「アノ、……あれは。」
ぱくぱくと唇をさまよわせながら、いいわけを考える。
眼の前の少女の名前を思い出そうとする。できない。いつもなら、なんだってすぐわかるのに。
「……入っても、いい?」
「いいけど、すぐに戻ってきてね、……」
かろうじて、そう、舌を動かす。
とくんと、心臓がふるえた。
少女は、おそるおそるもう一度引き戸に手をかけて、からりと動かした。
ぱちぱちと目をしばたかせて、それから、足を踏み出す。




