巨人(9月10日 岡くるみ) ⑦
くるみは、泥のなかに呆然としてしゃがみこんでいた。
池は、もうかげもかたちもない。ただの、泥のたまった穴があるだけ。くるみ一人が、ようやく膝をかかえて座ってくられるくらいのサイズの。
あずまやが見える。なぜか、眼下に。
そっと手をだすと、屋根のちいさな飾りが指先にふれる。人差し指の先を、送電線に添って右にすべらせてみる。
電柱よりも、ずっと太い。
とたんに、吐き気がこみあげてきた。胸が苦しい。苦しいというよりも、痛い。胃がぐるぐるして、何かが暴れまわっているような気がする。
──いやな思い出が、次々に頭の中をよぎる。
ごぼりと、巨大な胃のなかから、なにもかもが溢れだしてきた。
*
咀嚼された21個のケーキ。
昨晩の豚肉のかけら。
給食のスパゲッティ。牛乳。
池いっぱいの水と、魚と、泥と、アメンボと、アオミドロと捨てられたゴミの塊。ほとんど丸呑みしたので、形はそのまま。
最後に、トラック1杯ぶんのヘドロと、ほんの少しの胃液。
ぜんぶ吐き終えたとき、くるみの体は元の大きさに戻っていた。
池の岸で、……からっぽの胃のなかから、まだ何かを絞りだそうとして、嗚咽する。20回ほどくりかえして、ひりついた喉をかばうように、しばらく咳き込む。
ぽんぽん、と背中にだれかの掌がふれる。びくんと震えて、身をよじるようにしてふり向く。次の瞬間に気づく。裸だ。
それから、夢ではなかったのだと思い知る。
「岡さん、大丈夫?」
真っ赤なスニーカーが目に入る。それから、ワンポイントの入った白い靴下。
見上げる。ふわふわと撥ねるように癖っ毛に赤い髪留めをのせた、小柄な少女。顔にはなんとなく見覚えがある。たしか、同じクラスの。ええと、誰だっけ。
吊り眼ぎみのまぶたをぎゅっと細めて、かるく膝をまげて目線をあわせて。




