巨人(9月10日 岡くるみ) ⑤
翌日、土曜日。
けっきょく、食べ放題の店には行くことになり……、というか、何ごともなかったかのようにウェブで3人分の予約が入っていて、くるみも、なんだか意固地になるのも馬鹿らしい気がして、おとなしく母が運転する車の後部座席に乗り込んでいた。
家で父と過ごすのも、べつに嫌いじゃなかったけど。
スイートライティングまで、車で30分。大通りから2ブロックだけ奥に入って、住宅街の端っこにあるきれいなお店。半分がた埋まった広い駐車場の隅、搬入用のトラックの隣に、ゆっくりと止める。
食べ放題は、もともとあまり好きじゃない。姉は、いくらでも食べられると言うが、ぜんぜん違う。だって、時間制限があるんだから。
ひとつめのケーキ。いちごのショート。30分かけて食べる。
ふたつめ、フォンダンショコラ。20分。
みっつめ、モンブラン。5分。
よっつめ……、
いま、いくつめだっけ?
「ねえ、今日はずいぶん──、」
となりに座った母親がいいかけて、口をつぐむ。
「……シャツ、ちゃんと着なよ」
むかいの姉が、オレンジジュースのストローから口をはなして、ぼそりと。
くるみは、タルトのはしっこを指でつまんだまま、目線をおとした。シャツのボタンが飛んで、ワンピースの胸元から肌着が見えている。
右手でそっと触ってみる。ボタンは、ぜんぶとれてしまっている。お腹の下から、首下まで。
肩がきつい。いや、肩だけじゃない。太腿も、腹も、胸も。足さえ。体のシルエットが出るのがいやで、大きめの服を選んできたのに。
若干大きすぎたサンダルも、いまは革紐が足の甲にくいこんで、とても脱げそうにない。まさか。
思わず、ソファから立ち上がろうとする。膝が、テーブル天板にくいこんで、うまく立てない。足の裏はちゃんと床についているのに。
「ごめん、車に戻ってる」
よろよろと、テーブルから這い出して、立つ。姉の顔が、ずいぶんと下にある。
まるで、巨人になったみたいだ。
母が、口をぱくぱくさせている。なにか言おうとしているみたいだ。とにかく、通路を歩く。なるべく、小さくなって。
みんなが、こちらを見ているような気がする。店員も、客も。レジの前をぬけて、身をかがめながら自動ドアを通る。外に出てから、ひさしに頭をぶつけそうになる。
車のそばまで来てから、気づく。鍵がない。
がちゃがちゃとノブを動かして、うずくまる。となりの車の助手席から、女がこちらを見ている。ちらりと店の奥を見る。姉も母も、出てきてはいない。スマートフォンも席に置いてきてしまった。




