巨人(9月10日 岡くるみ) ②
『大』のボタンをおして、流す。水だけ。
トイレを出て、手を洗う。水音にまぎれて、ため息。
今日も、出ない。もう一週間だ。
それなのに、体調はとてもよい。下腹部を触ってみるが、溜まっている感じはしない。どこかに消えてしまったみたいだ。
とにかく、体重ばかりが……、
「ご飯だよ、」
と、母の声。あわてて廊下をぬけて、ダイニングへ。席につくと、珍しく姉が先に座っている。「ねえ、」と目の前に置かれた茶碗に、姉が文句をつける。
「ちょっと減らしていい? 多いよ」
「えぇ?」
母がすっとんきょうな声をあげる。父は、軽く眉を動かしただけ。
「いつも、そんなこと言わないじゃない」
「ダイエット!」
「だめ、成長期なんだから」
ぐいと、茶碗を押しつけるように母が動かす。姉は一瞬だけ、ぎゅっと唇をかむようにして、それから、はぁい、と小さな声で返事をする。
くるみは、気づかれないように唇をすぼめて、ため息をつく。
姉は、ぜんぜん太っていない。すらりと長身で、姿勢よく椅子にかけている。肩幅は狭くて、手首だって、くるみの半分くらいの太さしかない。
姉妹なのに、似ていない。顔も、体も。




