巨人(9月10日 岡くるみ) ①
「……最近、なに食べても体重が増えちゃって」
くるみは、小さな声でそうつぶやいた。
給食の、フォークで巻いたミートスパゲッティを、ゆっくりと口に運ぶ合間に。ゆっくりとした声で、ゆっくりとため息をつきながら。
「え、オカさん、あんまり食べないじゃん」
斜め向かいにすわった未希が、オカーさん、と少しのばした声で。お母さん、とはっきり言われることもある。まあ、あだ名みたいなものだ。
「そんなことないよ、」
ようやく一口を飲み込んで、いいかけると、右側から。
「オカアサン、めっちゃ食べるよ。こう見えて」
無遠慮な、高い声がとんでくる。
塚本さんだ。くるみは思わず身をかたくして、小さく首をふった。
「そんなでも、……ないけど」
「うそ。食べるの遅いだけで、ほっといたらめっちゃ食べるじゃん」
くるみは黙って、またスパゲッティを口に入れた。たしかに、その通りだが。
ひととおり咀嚼して飲み込んでから、ちょっと小さめの声で、訊いてみる。
「……マユー、前すごい痩せたっていってたよね」
塚本さんとは反対の、となりの席の子に。
「前って、夏休み前でしょ」
「それでもさ……、」
「あれ、なんかおかしかったの。また元に戻っちゃったし」
「わたしも」
「わたしも、なに?」
「わたしも、なんかおかしいの。最近」
「ええ?」
「だからさ──、」
今度は、耳にそっと口を近づけて。ささやくような声で。
「食べたら、太っちゃうの。食べたぶんだけ」
きょとん、と見返されて、くるみは、もう一度、ひそかにため息をついた。




