ウルフ2(8月12日 藤井大悟) ③
大悟は、公園の北はしの、切り株を模した小さな椅子に座っていた。赤い髪留めの少女は、大悟から二歩ほどはなれて、時計柱のそばに立っている。
住宅街ができたときに一緒につくられた、小さな公園。時計柱のほかは、ブランコとあずまやがあるだけ。あずまやの椅子に、時計柱の蛍光灯から青白い光が斜めにおちて、ふたりの影が短く伸びている。
「話って?」
「……おかしいんだ。」
「なにが?」
「影が……、」
少女はすこし黙って、とん、と脚を動かした。
蛍光灯に照らされた影が、とん、と同じく動く。それが、一瞬遅れたような気がして、大悟は目をしばたかせた。
「どう、おかしいの?」
「どうって……さっきの、見たでしょ」
「さっきの、」
少女は、右眉をちょっとだけあげて、飴を噛むように唇を動かした。
それから、半分うわのそらのような声音で、
「さっきの、あれが?」
「そう。……三ヶ月くらい前から、かな」
「そんなに?」
「うん、…」
大悟は立ち上がった。少女に背をむけて、三歩ほど歩く。蛍光灯の真下、いちばん明るいところへ。
影が濃くなって、輪郭があざやかに地面に落ちる。
四つ脚の、ざらりとした毛に包まれた、狼のような獣の。
ぐ、ぐ、と唸り声がきこえた。
藤井は、少女に背をむけている。唇は見えない。くるしげな、喉の奥から絞り出したような声が、かれの口から出たものか、少女にはわからない。
人のものとは思えないような、低い、ぶきみな唸り声である。
ぐるる、と歯を噛みしめるような声。
外飼いの動物のにおい──、




