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へんな子たち  作者: 楠羽毛
ウルフ2
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ウルフ2(8月12日 藤井大悟) ②

 獣臭が、足元から、そっと探るようにひざをつたって、股のあいだをぬけてのぼって来る。胴から、首筋、耳のうしろを探って──、

 やめて、と叫ぼうとする。喉がからからで声が出ない。

 右手に、なにかが触れた。ざらざらした動くもの。一瞬後に、舌だと気づく。それから、硬いもの。歯。きゅっと強い力をこめて、手の甲に、なにかの牙が。

 ぎりぎりと、ちぢこまった喉のおくで悲鳴が暴れまわる。声がでない。


 牙が──、


「どうしたの?」

 ちいさな声。いや、遠くの声。はっとして見回す。何もない。遠くの交差点にいた少年は、いつのまにか現れた、もうひとりの子供と立ち話。ほかには、なにも無い。犬も、虫も。

 影さえ。



 紅い、少し派手めのヘアクリップ。

 毛量がおおい、ふんわり撥ねるような髪をぐいっと留めて、髪留かみどめと同じ色のスニーカーを履いている。ワンポイントの入った靴下の上に、ハイウエストのハーフパンツ。Tシャツの袖からすらりと伸びた腕で、少年の頭をつんと突いて。

「何これ! 暑いでしょう」

 夜闇にひびくような声。少年はびくんと震えて、しばらくためらってから、そっとフードをおろす。

 細おもての、肌の白い少年である。

「汗べっとり。何してんの」

 きれいに頭皮に張り付いた髪に、少女が手をのばす。少年はいやそうに右手ではらいのけて、にらむように目を細めた。

「パーカー、脱いだら?」

「うん、……」

 眉をしかめて、緩慢な動作でチャックをおろす。青いパーカーを脱ぐと、むわっと汗のにおいが漂ってくる。

 少女は、西の住宅街に目をやって、──女が、走って去っていくのを見た。

「あの、……」

「なあに? 大悟だいごくん」

 少年、藤井ふじい大悟だいごは、……小さく、うつむいて、


「すこし、……話したいんだけど。」


 と、言った。


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