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へんな子たち  作者: 楠羽毛
ウルフ2
29/103

ウルフ2(8月12日 藤井大悟) ①

挿絵(By みてみん)

 満月が、雲のあいだからのっそりと這い出してくる。

 その真下。住宅街の4メートル道路を、夏用の、ストレートパンツのスーツを着た女が、こつこつと高い音をたてて歩いている。

 街灯がいとうから街灯がいとうへ、飛び石をふむように大股で。

 月が、まっすぐに降りて街灯がいとうのあいだを照らしている。うすい影が、いくつも女のまわりを囲んで、さやさやと揺れる。

 前の街灯がいとうの影。

 背中側の街灯がいとうの影。

 月光。

 街灯がいとうの真下に達すると、後ろの街灯がいとうの光は届かなくなる。2つに減った影が、少しすると、また3つにふえる。時計の針のように、くるくると角度をかえながら、女を守るようにとり囲む。


 ──ふと、うしろの影に、なにかが触れた気がした。


 ふりむく。誰もいない。

 いや、ずっと前に通りすぎた小さな交差点の右脇に、子供がひとり。遠くてよく見えないが、男の子のようだ。

 中学生くらいか。この蒸し暑いのに長袖の上着にフードをかぶって、両手をポケットに突っ込んでいる。

 他に、ひとの気配はない。

 気のせいだろう。歩きなれた道とはいえ、夜だ。すこし、過敏になっているのかもしれない。

 もっとも、今夜はみょうに明るい。月光にそって歩けば、怖くはない。

 ふと、生臭いにおいが鼻につく。

 獣臭。実家で飼っていた犬の匂いに似ていた。一瞬、懐かしさを感じて、すぐに妙だと気づく。散歩の途中で、手首に鼻をこすりつけてきたときの匂い。濡れ落ちた落ち葉のような。

 あまりに、近い。

 もう一度、あたりを見回す。犬はおろか、虫一匹見当たらない。人も、車も。

 いや、さきほどの交差点には、少年がまだ立っている。伏し目がちにこちらを見ているようだ。が、遠い。犬を連れているようでもない。

 こわくなって、立ち止まる。自宅のアパートまで、あと10分。走りだしたくなるのをこらえて、匂いのもとをさぐる。気のせいかもしれない。けれども、あまりに近い。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 各方面は奥深い存在です。 [気になる点] 彼らは皆神秘的です。 [一言] 未来に期待できる作品、評価は万能宇宙の神から
2024/01/07 16:38 退会済み
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