異世界から来た少女(8月2日 下田桃花) ④
──わたし、別の世界からきたの。
*
「へえ、」
「だからね、今日は」
「うん」
「この山のうえの洞窟に、異世界の遺物があるのがわかったから、取りにね」
「うんうん」
「……信じてないよね」
「えー、」
ふわふわと曖昧な笑みをうかべる少女をぎゅっと睨むように見て、桃花は、足を止めた。
ぱちぱち、とまばたき、それからちいさく呪文をとなえて。
力、を手のひらに集中する。
両手をあわせて、その間に、ゆっくり、血をめぐる力をうつしていく。
まあるく、ととのえて。
真球に整形した力が、炎のようにかがやきだして、それから。
剣、が落ちた。
「……すごぉい」
ぱちぱちと、拍手。
すとんと地面に落ちた、刃わたり1メートル近くある両刃の剣。柄はきれいに飾られて、先端にはにぶく輝く緑の石が。鞘はない。
手にとる。軽い。いや、重みを感じない。
刃にふれると熱を吸って、じんわりと冷える。
気持ちいい。
「なあに、それ?」
「剣!」
すっと、きっさきを前にむけて。構えなど、知らない。我流だ。
「えー、あぶない」
女の子は、おどろいたふうもなく、まだへらへらと笑っている。
桃花は、無造作にリュックをおろして、前にでた。横によけた女の子の脇をぬけて、道わきの藪に近づく。
エノコログサ、ヨモギ、それから、すすき。膝上までびっしりと草の葉で埋まって、地面はほとんど見えない。その、奥が。
ざわざわと、動いている。




