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異世界から来た少女(8月2日 下田桃花) ③
むこうが先にふりむいてきた。吊り眼ぎみの、するどい目を、くしゃっと細めて。
「シモちゃあん」
ひとなつっこく、あだ名で。
「あれ、……」
名前が思い出せないままに、返事をする。つい最近も、会ったような。
「どしたの? こんなとこで。」
息も切らさず、かけよって来る。こちらは脚を止めない。かってに歩調をあわせて、横からのぞきこむようにして来る。
「そっちこそ、……」
「ピクニック!」
「ひとりで?」
「そっちこそ!」
まあ、それはそうだ。
それから、思い出す。
いや、むしろ、どうして今まで忘れていたのか。
「こないだ、雷のとき──、」
「雷?」
あいては首をかしげる。むしろ、むこうが忘れていたようだ。
背筋がぞくりとする。……そんなこと、あるだろうか。
「先週の月曜日! 雨のとき──、」
「ああ、」
と、わざとらしく大きくうなずいて、なんだか乾いた声で。
大丈夫だろうか。
ともかく、桃花は話をつづける。歩きながら。
「……あのとき、思いだしたの。」
ここで話すことにしたのは、ほんの気まぐれだった。
「なにを?」
「わたしが、……どこから来たのか。」




