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異世界から来た少女(8月2日 下田桃花) ①
思い出したのだ。
わたしが、どこから来たのか。
*
夏休み──、
梅雨はとっくにあけたのに、朝から大雨。
大粒の雨が、叩きつけるようにアスファルトを打つ。
熱帯低気圧。こんな日の昼間に、傘をささずに立っている人はいない。
ふつうは。
「……なにしてるの?」
赤と黒のチェック模様の、ちいさな傘。まっすぐに持って、レインブーツをはいた少女が、近くで立ち止まる。知り合いのような気もする。顔をみても、よく思い出せないが。
桃花は、落とした傘の柄に、右手の指で触れたまま、ぼんやりと空を見上げていた。雷鳴。傘をさしていてもあまり変わらない大雨だが、もう全身、海にとびこんだようにずぶぬれで。
もう、五分ほどもたっただろうか。時間の感覚が、わからなくなっている。
「ねえ!」
少女は、ちょっと傘をふるわせて、眉根を寄せた。びちゃりびちゃりと無遠慮な足音をたてて、近寄ってくる。
手が、こちらに伸びる。指先が服にふれる。
──静電気!




