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へんな子たち  作者: 楠羽毛
赤い糸
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赤い糸(4月21日 山崎乃愛) ②

 それから、両親のこと。

 中学校に入ったばかりの頃だ。おむかいの老夫婦の薬指が、しっかり糸でつながっているのをみて、自分の両親はどうなのか気になった。

 休日に、公園にいくふりをして糸をたどった。家で家事をしている母の糸は、2ブロック先の、アパートの一室とつながっていた。

 一週間後、どうしても気になって、母のスマートフォンを覗いた。眠っている隙に指紋認証を解除して、メッセージアプリと、アルバムを見た。

 次の水曜日、学校をずる休みした。家族共用のタブレット端末でこっそり欠席の連絡をして、家を出てから公園のトイレに隠れた。

 人通りが少なくなってから、私服に着替えて、アパートの前へ。駐輪場のかげにひそんで見ていると、母がやってきて、インターホンを押した。

 入っていくのを確かめ、帰ろうと思ったが、足が動かなかった。

 十分ほどして、母は短髪の若い男とふたりで出てきた。左手にハンドバッグ、右手で男の手をひいて。男は、指だけで手を握り返しながら、もう片方の手で、母の胸の下あたりを擦るようにつついていた。筋肉質の、太い指で。

 男の顔はよく見えなかったが、母はわらっていた。

 目が合った。すくなくとも、乃愛のあはそう思った。けれども、母は足を止めなかった。ただ、一瞬唇をひきつらせて、青ざめたようだった。それから、男と一緒にアパートの敷地を出て、駅のほうへむかって歩いていった。

 それから、乃愛のあは家に帰って、自分の部屋ですごした。夕方、帰ってきた母は、何も言わなかった。乃愛のあも、だまっていた。ただ、その日から、乃愛のあは小遣いに不自由しなくなった。

 父の糸も、確かめねばならないような気がして、歩いてみた。市境しざかいをふたつ越えたところで、疲れてやめた。母からもらった金で、映画をみて帰った。父のスマートフォンは母がよく触っているので、見るまでもなかった。

 だんだん、人が多いところが苦手になった。

 カバーをかけた文庫本を、いつも持ち歩くようにした。本が好きなわけではない。けれども、文字に目を落としていれば、糸を見ないですんだ。

 休み時間、本に目を伏せながら、クラスメイトの薬指を、一人ずつ盗み見た。ほとんどの糸は教室から出て遠くへのびていたが、何人かはクラスメイト同士でつながっていた。うらやましかった。

 自分の糸だけは、どうしても見えない。

 中学校一年生の二学期、別のクラスの男子に告白された。糸はつながっていないと知りながら、一週間だけつきあった。そのあと、隣の席の女の子にこっそり水を向けて、引き合わせた。乃愛のあはふたりに感謝され、それからまた、休み時間は目を伏せて過ごすようになった。


 それが、およそ半年前。

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