アイスクリーム(7月12日 松浦真優) ②
「……だいじょうぶ?」
ぱちんと目をあけると、くもった表情で、ベッド脇にすわっている同級生。ちょっと吊り眼ぎみの目をまあるく見開いて、赤い髪留めをしたボリュームのある髪を、左手でかきあげながら。やせた、きれいな爪のある手を、ベッドの脇にかけて。
「う、ん」
ボンヤリとした頭で、名前を思い出そうとする。この子、誰だっただろうか。
保健室。ベッドのまわりは白いカーテンで囲われている。カーテンのむこうは静かで、人の気配は感じられない。
保健室の先生は、留守なんだろうか。
「呼んでこようか、保健のセンセ。」
見透かしたように、少女がいう。うん、と頷いて、軽く身をおこす。熱中症、それとも貧血。熱があるような気はしない。むしろ、
──冷たい。からだも、布団も。
「……溶けかけてたんだよ、マユー」
「とけかけて?」
思わず聞き返してから、頷く。どろどろの汗まみれで、倒れていたのだ。まさしく、溶けかけていたにちがいない。
まるで、アイスクリームみたいに。
汗。そういえば、と気づく。足の臭い。洗っても洗っても落ちなかったひどい臭いが、今日は全然しない。カーテンのなかにこもっていたらイヤだな、と一瞬考えたが、どうやら杞憂だった。
そのかわり、甘い匂いがこもっている。バニラの。
「ねえ、昨日どれだけ食べたの?」
「……え」
「アイスクリーム! さっき、言ってたじゃん」
「……そうだっけ?」
「だから、……体が、甘くなっちゃったんでしょう?」
言い回しに若干の違和感をおぼえながらも、うなずく。匂いのことを言っているのだろう。それにしたって、
たかだか、パイントサイズを2つ、食べたくらいで。
「ダイエット、してたんじゃないの?」
「……してたけど」
そんな話、しただろうか。
「体重減ってるよ、きっと」
「そう、……ね」
これだけ汗をかけば、そうだろう。
「じゃ、……センセ、呼んでくるね」
少女は出ていき、ふたたび、カーテンが閉められる。
あとには、
籠もりきった、あまい匂いだけが、残った。




