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アイスクリーム(7月12日 松浦真優) ①
どろりと、汗が落ちた。
鼻につんと鋭い匂いをおぼえて、眉をしかめる。
アイスクリームの匂い。バニラの、砂糖たっぷりの。
きのう、食べすぎたみたいだ。汗でじっとりしたユニフォームのそこかしこから、甘い香りがする。
100メートル走。
夏にやるものじゃない。暑くて、熱くて。でも、嫌いじゃない。
とん、と地面を蹴る。
蹴る。
蹴る。
心臓が跳ねる。
太陽の熱と、風が、じかに鼻にあたる。また、汗が落ちる。
足が、ゴールの線をふむ。くいしばっていた唇をぱっとひらく。荒い吐息が、焼けた煙みたいに喉に刺さる。
「次!」
先生の声に押されて、ゆっくり進む。
むわっと鼻につく汗のにおい。いや、違う。
やっぱり、アイスクリームの香りだ。
*
急に、立ちくらみがした。倒れる寸前、足元が目に入る。大粒の汗が、ぼたりと落ちる。甘いにおいの、……白く濁った汗。




