15/103
穴(5月27日 真鍋孝則) ④
「……ねえってば!」
また、ボンヤリしていたらしい。水位はどんどん高くなって、もう、胸のあたり。
それから、うまく回らない頭で、いろんなことを思い出して、
「……別に、いいよ」
と、こたえる。
ほんとうに、そういう気分だった。
*
あっというまに水は穴のふち近くに達して、それから、
風呂桶の栓を抜いたように……いや、洋式トイレの水を流すように。がぼがぼがぼ、と大きなうずを巻いて、消えていった。
あとには、穴だけが残った。穴の底は、手をのばせば届きそうなほど近くて……、もちろん、水が流れていくような横穴など、ない。そう、見える。
少女は、ぱちくりと目をしばたかせて、
「……あーも、しょうがないなー……」
つぶやいて、スコップを握った。
(いつだって、後始末はあたしの仕事なんだから)
とっとと、埋めてしまおう。そう、思う。ため息ひとつ。
(穴 了)




